防衛本能

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  「はい、預かってた鍵。今ジェイ寝たから」 「ありがとう、助かった。元気な顔になったか?」 「うん、シュークリーム全部食べたよ。3つ買ったのにさ」 「相変わらずだよな」  二人はカウンターに座った。 「連絡くれれば良かったのに」 「6月にか? 重病人ってわけでもないしな」  もうすぐ9時半。ラストオーダーの時間が近い。ジェイが休み始めて、蓮は思い切って店を閉めるのを早めた。そばにいて面倒を見てやりたい。一人きりにしたくない。なにか無い限りしばらくは10時をラストオーダーにして10時半に閉店にするつもりだ。店が閉まっていればそれだけジェイの心にも負担にならない。 「原因ってなんですか?」 「友中先生は疲れだろうって言っている。いろんな変化に体も心も対応するのに追われてるんだろうって」 「そうか…… それにジェイは自分に容赦ないしね、誰かさんみたいに」 「花、俺に当てこすりか?」 「だってそうでしょ。これあんまり首突っ込みたくない話だけど」  花の声が小さくなった。 「夫婦の夜、求めすぎたんじゃないでしょうね?」 「花!」 「はいはい、失礼」  花だってこんな話はイヤだ。けど有り得るから釘を刺しておきたいと思った。 「お前は小姑か! 哲平、ちゃんと花を躾けとけ」 「河野さんだってできなかったクセに、俺に振らないでよ」  久しぶりにこんな話をする。蓮はなんとなく感じた。 (ジェイ、こういうのが欲しいのか? 寂しいか? 俺と二人だけじゃ) 「……少し親父っさんのところに預けてみようかな」 「自分から引き離すってこと? 逆効果じゃないっすか?」 「あいつ、寂しいのかもしれない。ずっと誰かとくんずほぐれつやってきたからな。今じゃ俺と二人きりだ。そういうのもあるかもしれない」  確かにさっきのジェイの表情は明るかった。でも二人を離していいんだろうか? 「ジェイに聞いてみたら? 遊びに行くか? って誘って様子が良ければジェイだけ泊まらせたっていいんじゃないかな」 「そうだな…… そうするよ、花。ありがとうな、二人とも。忙しい最中だっていうのに」 「俺たちにも息抜きは必要ですよ。もうあの会議地獄! なんとかなんないっすかねぇ!」 「お前がなんとかしろ。出来るだろ?」  蓮の全幅の信頼が嬉しい。誰よりも蓮に褒められることが哲平の原動力にもなっている。 「ご馳走様! じゃ、帰ります」 「ああ、また来てくれ。だが仕事に支障ないようにな。無理するな、と言いたいところだが俺が言っても」 「説得力ないっつーの! 無理の権化が言っても」  店を片付けて上に上がる頃には11時を過ぎていた。ジェイ用に作ったおじやを持って店を閉める。家に入ると「お帰りなさい」とジェイが出迎えてくれた。おじやを置いて、その体を優しく抱きしめる。 「ただいま」   
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