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「そうだ、空佐そろそろ前髪切ったら?伸び過ぎてエロゲの主人公みたいになってるよ。」
「確かにそうだけど、湊はどこからそんな表現覚えてくるんだよ。俺は別に意識してるわけじゃなくて切る時間が無かっただけなの」
友人のマニアックな知識の出どころに滝澤は逆に興味が湧いてくる。滝澤は何度か湊の家に上がらせてもらっているが、その類のゲームソフトを見つけたことはない。……とはいえ、湊は立派なオタクであるため、目の肥えていない滝澤が気付かなかっただけかもしれない。
「そっか……時間ないもんね」
「あ……」
滝澤はようやく自分の発言が地雷を踏んだのだと気付いた。咄嗟に話題を変えようと話を湊の得意分野に運ぶ。
「そういえば、転盾の新刊出るんだって?」
「あっ、そういえば白羽乃矢先生がTwiiterで出るって言ってたね。三年ぶりの新刊楽しみだよ~」
転盾とはライトノベル、『転生したら最強の盾だった件』の略称である。作者が怠惰なことで有名で、新刊は三年と二か月ぶりであった。
嬉しそうにアホ毛が右に行ったり左に行ったりしている。独自の生命を持っているのではないかと観察していた時期もあったが、結局滝澤にはよくわからなかった。
「無事に師範が回復したらまた読ませてもらいに行くよ」
「うん、待ってる待ってる」
現在、滝澤の部屋には何もない。教育熱心な親が買い与えた参考書も剣道の指南書も全て身に着けてしまった。彼の興味の対象となるようなものは文字通り何もないのだ。
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