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「ニンゲンの気配が一つ……何処に居る?出て来い侵入者よ」
「(そう言われて出てくるやつが居るかっての……!)」
寂とした森の中で響いていた足音は滝澤が隠れている岩の前で止まった。
「やはり気のせいか」
足音は再び離れていった。助かった…と滝澤は安堵の息を吐く。が、それが不味かった。
「分かった。そこだな?」
滝澤の背後の岩が砕かれ、丸見えになった滝澤は心臓が止まりそうになる。
「(滝澤家秘技、擬死[死んだふり]!)」
わざとらしくパタリと倒れる滝澤。実際は秘技でも何でもない。
「(神様助けてぇー……!)」
「ふん、忌々しい……」
滝澤の体は大きな手のようなものに掴まれ、持ち上げられた。
「りゅ、龍!?」
滝澤を摑んでいたのは巨大な緑の鱗を持つ四肢を持った大トカゲ。即ち、龍である。
「待って、待って待って、俺チガウヨ!モンスターの敵ジャナイヨ!」
「モンスターの敵ではないだと……?ほざくなニンゲン。そう言ってこのワイヴァーンを欺いて襲うつもりであろう。去れ、愚か者!」
ワイヴァーンは滝澤の身体を宙に投げた。そして深く息を吸う。
「待って、おじいちゃん!」
ワイヴァーンの後ろ足にハーピィの少女が抱きつく。一瞬驚いたワイヴァーンの動きが止まった。
「fouuuuuuuuuu!」
ワイヴァーンの口から小さな竜巻が吐き出され、滝澤の身体は今度は竜巻に呑み込まれて少し離れた森の中へと吸い込まれていった。
「うへぇぇぇぇぇぇ」
完全にワイヴァーンの視界から消えた。ワイヴァーンはハーピィの少女の方を見る
「ルナ……」
「おじいちゃん、あのニンゲン、殺しちゃったの?」
ルナの純粋無垢な瞳がワイヴァーンの瞳を見つめる。
「……死んではいない。ルナ、ニンゲンはな、産まれたときからモンスターの敵なんだ」
「あのニンゲン、悪くないよ」
「たとえ今は悪いニンゲンでなくともこの森に入ってきた事が問題なのだ。お前は気にするな。そのうち嫌でも分かる」
シュルル……と、老人の姿になったワイヴァーンはルナの頭を軽く撫でると森の奥へと歩いていった。
「あ、剣……忘れてる」
滝澤の木刀を掴んだルナは滝澤を探して森の中へ羽ばたいていった。
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