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「う、うるさい!私に近寄るな!」
騎士は近くにあった剣を持ってぶんぶん振り回した。
「ぶ、物騒だなオイ。か、顔見たからって何があるんだよ」
騎士の握っている塚が今にもするりと抜けそうで怖い滝澤。ゆっくり後退りして木刀を取ろうとする。
「ヴァンパイア族は自らを打ち倒し、顔を見た者を夫とする!即ち、今からお前は私の夫なのだ!」
「……は?お、夫……?」
自衛の気も失せた。滝澤はあんぐりと口を開け、聞き返す。
「そ、そうだ。だが、ニンゲンであるお前を夫とするのは如何なものか!だから、今は私の半径5m以内に入るな!」
「何だその中距離恋愛は。……別に、掟に縛られなくてもいいんじゃね?」
滝澤だって滝澤一族の風習を破り続けている身であるからこその一言だった。因みに、その風習とは男は坊主頭にするというものである。滝澤は意地でも坊主になる気はない。
坊主だった小学生の頃に散々ハゲと言われ続けた結果である。
「し、しかし……それではヴァンパイア族としての誇りが……!」
「そんなのいいんだって。自分がそれだと名乗ればそれになってるんだよ。別に掟を守らなくたって、お前がヴァンパイアなのは変わりないだろ?」
珍しく滝澤が説教している。近々雨が降るかもしれない。
「ならば、せめてお前と共に行こう。その出で立ち、どうせここには留まらないのだろう?」
「ああ、俺は王国を目指してる。モンスターと人間が友好関係を結べるように、俺が魔王になるんだ」
魔王という単語を聞いた騎士の口元が緩む。その目は何処か別の場所を見ていた。
「魔王……か。そうだ、名前をまだ聞いていない」
「俺は滝澤。お前は?」
「私の名はヴィル・レディオン、これから滝澤の妻になる女だ」
「結局夫になるのな。まぁ、いいか……」
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