君ならで 誰にか見せむ 梅の花

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 翌朝、自転車を返しに来がてら迎えにきた富樫と一緒に、梅乃は駅まで歩いた。なんてことはない会話を交わして、電車に乗る。少し混み合ってるくと、梅乃を抱きしめるように周囲から守る富樫にときめく。梅乃は幸せを噛み締めていた。 「うめちゃん」  電車の中、富樫が小声で囁いた。 「キスマーク、目立たないね」  思ったよりも薄すくなったキスマークを梅乃も残念に感じていたが、それは口にしなかった。 「おかげさまで、着れる洋服が増えて助かったよ」  富樫は不満そうに口を尖らせると、そっと身体を屈めた。 「いいよ、またたくさんつけてあげる」  梅乃が睨むと、富樫は嬉しそうに笑った。  直後、車内アナウンスが流れた。 「富樫くん、次降りるよ」 「え、またウルフパンですか?」 「うん。先週は我慢したの。だってね、行儀悪いけど、歩きながら二人で食べたパンがおいしかったんだもん。ね、行こう」  渋る富樫の手を握ると、梅乃は手を引いて電車を降りた。ウルフパンはとてもおいしいのに、なぜ、そんなに渋るのか梅乃には分からなかった。 「イケメンブーランジェ、今日もいますかね」  富樫は面倒くさそうな顔で、階段を上がっている。 「そりゃいるよ。江波さんが、あのおいしいパンたちを作ってるんだもの。あ、もしかしたら」  意地悪なことを思いついた。梅乃はニヤつきながら、富樫の腕に身体を寄せた。 「富樫くん、やきもち妬いてるんじゃないの?」  図星だったようだ。富樫は眉を寄せると、そっぽを向いた。
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