君ならで 誰にか見せむ 梅の花

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「じゃあ、おやすみなさい」  梅乃の自転車にまたがる富樫の頬に梅乃はキスした。 「明日、遅れないように来るから、待っててね」 「うん。ふふふ」  梅乃はにやにやと笑うと、セーターの上できらめくゴールドのチェーンに触れた。 「気に入ってくれた?」 「もちろん。ケーキ買ってきてくれて、ありがとう」  夕方、ちょっと出かけてくると言って飛び出していった富樫は、三十分後にケーキの袋を持って帰ってきた。 「花江さんに聞いたんだ」  事前に花江にリサーチして、誕生日ケーキを予約してくれていたのだ。 「ケーキおいしかったね。花江さんが退院したら、またケーキ買ってくるから、お祝いしようね」 「うん。ね、富樫くん」  本当はこのままついていきたい。毎日一緒にいれたらいいと思う。 「何?」 「好きよ。大好き」  富樫の口が満更でもない様子ですぼまった。腕を掴まれ、引き寄せられる。唇が重なり、富樫は梅乃を抱きしめた。 「俺も、すげー好き」  明日の朝までお別れだ。梅乃は富樫の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、そっと離れた。 「おやすみ、うめちゃん」 「おやすみなさい。気をつけてね」  富樫は名残惜しそうに梅乃を見つめると、ペダルをこぎ出した。キーキーと音をさせ離れていく富樫の背中を見えなくなるまで見送った。  いい誕生日だったなぁ。  自転車の音が聞こえなくなってから、青い山脈を口ずさみ梅乃は家の中へ入った。
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