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「明日から毎朝食べる」
「朝はパンじゃなかったのかい」
花江も一粒取ると小さな皿に乗せた。茶うけにするのだろう。
「富樫くんがね、梅はその日の難逃れって教えてくれたの」
花江のつける梅干しは酸っぱくてしょっぱくておいしい。一口かじって梅乃が口をすぼめると、花江もかじってしわしわに口をすぼめた。
「おいしいね」
目を細める梅乃に微笑みながら、花江は音を立てお茶をすすった。
「梅乃とこうちゃんはつき合ってるの?」
唐突な質問に、梅乃はお茶漬けの柔らかくなったご飯をのどに詰まらせ、苦しそうにむせ込んだ。
「少し若い気もするけどね、いいと思うよ。私は大賛成」
涙目で花江を見ると、納得したように頷いている。梅乃は笑ってお茶を飲むと、首を横に振った。
「つき合ってないわ。富樫くんは部下だもん」
「ああそうですか」
わざとおどけたような声をあげると、花江は洗濯物の続きを始めた。
「じゃあ、おばあちゃんがつき合おうかね。後で後悔しても知らないよ」
「ふふ、いいよ。富樫くんもおばあちゃんすきみたいだし。でも、彼も忙しくて疲れてるからこき使ったらだめよ」
「失礼だね、こきなんて使わないよ」
それ以上、花江は何も言わなかった。
「明日はシーツとか大きいもの洗うね」
返事の代わりに花江が鼻歌を歌い始めた。青い山脈、花江の大好きな歌だ。梅乃は残りのお茶漬けをかっ込んだ。
来週富樫を食事に誘おうと思った。富樫を思い浮かべると幸せな気持ちになる。
いつの間にか、梅乃も青い山脈を歌っていた。
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