7.監督の拳

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7.監督の拳

7.監督の拳  僕は総合体育大会地区決勝大会で優勝したが、陸上部の仲間からは、練習で手を抜いていると思われていた。  100メートルを、全力疾走し、歩いてスタート地点に戻りまた全力疾走を繰り返す。  かなりきつい練習だ。5~6回繰り返すと、  僕は「だめだー、もう無理だ!」と弱音を吐いてグランドに座りこんだ。  それを見ていた秋田先輩が座り込んだ僕のところに来た。 「皆汗を流して真剣に練習してるんだ。優勝したからって天狗になるな。お前みたいのがいると練習のじゃまなんだよ」 「みんなが辞めろと言うなら、やめますよ」 「お前ナメてんのか? 」 秋田先輩は拳を上げた。 「気がすむなら殴ってください」  僕は、秋田先輩の拳の前に首を差し出した。 「お前。どこまでひねくれてるんだ」  秋田先輩は呆れて拳を降ろした。   部員たちも秋田先輩と同じ目をして僕を見ている。 僕はいたたまれなくなって校庭を後にした。  翌日、午後練習で、部員たちがグランドに出ると、吉田監督は僕に部室に留まるように言った。 「少し話そうじゃないか」  監督と僕はテーブルを囲んで座った。 「一平、お前は他の選手に無いすばらしい足を持っている」 「監督は、練習を自由にさせてくれると言ったでしょ」 「確かに言った。お前の力がわからなかったからな。 練習見てて、今のお前なら、全国陸上大会も狙えると分かった。 俺が保証する。もっと真面目に練習しろよ」 「かいかぶりですよ。僕は全国陸上大会なんて興味はないですよ」 「興味がない? じゃ、なぜ練習するんだ!」  監督は怒鳴って立ち上がると、僕を殴ろうとしたが、口をへの字に曲げて怒りを抑えた。      
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