1. 再会

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1. 再会

1. 再会  青葉高校に入学して2日目、最初の英語の授業は最悪だった。  30代の英語教師が、早足で教室に入って来るなり教壇に駆け上がり、持ってきた教科書を机に投げて、英語でしゃべりだした。  長めの茶髪にブルーのジャケットにジーパン。 小さめの丸形フレームのメガネを鼻孔の小さな鷲鼻にかけている。  表情仕草は自信に満ちていて、流ちょうな語り口は、まるで有名歌手のショウタイムが始まったみたいだ。しかも機関銃でも撃つように早口だから、何を言っているのかわからない。  わざと早口でいってるのかよ! と、突っ込みたい気持ちを抑えて、適当に頷いていたら、教師と目があってしまった。 「Understand?」 「え! アンダスタ? って理解? 何を理解?」  僕は棒立ちになって、たちまち周囲から笑いが起こった。 「中2レベルの単語だよ。こんな優しい単語もわからないの!」 教師は僕に向けた指を回しながら言った。 (僕はトンボかよ! ) 英語教師は座席表を眺めて言った。 「じゃ、隣の生徒…… あなたも木村さんか? 同じクラスに同姓? 驚きだね」  まるで、早押しクイズの司会者のような口調だ。 すると、女子生徒が立ち上がり、英語教師の自己紹介を和訳した。 「すげえな!」 「 かっこいいじゃん!」 「まじ、頭がいいな」 男子たちから歓声があがった。 「女子の木村さん。いいね。完璧ですよ」  英語教師は机の座席表に目を落として満面の笑みで言った。 「男子の木村一平君、中学英語から勉強したら?」  英語教師は顎を出して馬鹿にするように言った。 みんなには相当頭が悪い奴だと思われた。 挽回は難しいと思った。 しかも、隣の女子が同性でとても頭がいいみたいだ。これからも何かと比較されそうだ。  英語教師は最初の授業で自分の英語力を自慢したかったみたいだ。 それからは、生徒にリーディングさせて、意味や発音を説明する授業になった。  何だよ! かっこつけたいだけで僕をさらしものにしたのか!   大恥をかいて、しかも会話する仲間もまだいないから、さっさと昼食を済ました。  英語の授業から解放されて、満腹になったせいかもしれない。  頭の中で爆睡モードのギヤが入り、体が前かがみになって、今にも頭が机にぶつかりそうになった。 「木村君! あなたは私を知ってるの?」  爆睡モードに急ブレーキがかかり、僕はその声に反応して声の方向を向いた。  瞳孔が急に開いて、教室の景色と一人の生徒の姿がハレーションを起こして迫ってきた。  その生徒は、見覚えがあった。  僕が知っていた生徒より、身長が10センチ位高く、髪が三つ編みからショートヘアに変わっていたが、小学校の同級生に違いなかった。  その人の名は青木ひろみさん。 「もちろん知っているよ」  僕は懐かしさを込めて言った。 「入学式であなたを見てから気になって……どこかで会った? 幼稚園? それとも小学校?」  ひろみは硬い口調で僕を問い詰めるように言った。  僕は『え?』とびっくりして立ち上がった。  ひろみとは、父の仕事の都合で別の中学校に通うことになって、卒業後は連絡が取れなくなっていた。 「小学校だよ。僕が5年の2学期に転校して君に会ったろ。卒業するまで同じ2組で一緒だった」 「そうだったんだ……」 「転校した時は、席も隣だった」 「席がとなり?」 「君から消しゴム貸してもらったんだけどな。図書室で一緒に勉強したこと覚えてる?」 「……何のこと?」 僕にとって忘れられない出来事を、覚えていないと言う。 「僕をからかってるの?」  僕は思わず声を荒げそうになった。 「私、中学1年の時、自動車事故に遭って、昔の記憶がほとんどないの」  ひろみは辛そうな目で言った。  僕はその言葉に救われたが、同時にひろみが気の毒になった。  どんな事故だったのだろう? もしかしてご両親もケガをしたのかもしれない? 過去の記憶がないって、苦しいに違いない。 「屋上で話さないか?」  僕はそう言って、ひろみを教室から連れ出そうとした。  その時、男子生徒がいきなり僕の前を塞いだ。  その生徒は170cm位の痩せ形で髪を7、3に分け、黒縁のメガネをしていた。  僕は身構えた。 「僕は中山秀樹だ。ひろみは僕の大切な人だ。ひろみには近づかないでくれ」  秀樹は強引にひろみを教室から連れ出してしまった。
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