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「おーい。真下さん、真下さーん」
だるそうな声に顔をしかめて振り返る。シャツをズボンから出して、中学になったばかりだというのに髪を染めた不良もどきの同級生がへらへら笑ってた。
「何?」
肩で切りそろえた髪がさらりと流れる。真面目で堅物。睨んだわけじゃないけれど、いつも顔をしかめているようだとクラスの女子から怖がられていた。それは男子も同じ。ちょっと話しただけで、なぜかびくり体を震わせる様子にイライラしたものだった。
「一人だったら俺と一緒にまわらね?」
本来ならグループ行動の鎌倉市内での小旅行は、付き合っている者同士が班内にいたためか、それぞれ好き勝手な行動を取っていた。他の班は六人だったのに私は五人だけ。めでたくも私一人あぶれてしまい、真面目な私は班のメンバーと事前に作った、小旅行のしおりのルートに従って歩いている。
「まわらない。私、忙しいの」
「いいじゃん。一緒にまわろー」
「邪魔だから向こう行って」
せめて友達と同じ班ならこんなことにはならなかったのにと唇を強く噛む。他のグループの子に一緒に行こうと誘ってもらえたけど、私の班が回るルートは正反対だった。断って一人で真面目に取り組む自分が情けないくらい嫌になる。もう少し融通が利くというか、ズルもできたら良いのにと思う。そうそう、目の前にいるこのちゃらい男も、本当なら正反対の方向のはずだ。
「俺、真下さん、救うヒーローになってくる!って言ったら、みんな許してくれたよ」
へろっと笑う男は間違いなく睨みつける。こうして見るだけでまわりは少々ビビるのだ。だがこの男はびくともしなかった。
「馬鹿なこと言うのはやめて」
「いいじゃん。いいじゃん。一人はさみしいじゃん」
「正直、迷惑」
オブラートに包まずにストレートに言ったら、ひっでーと笑ってそのまま私のそばにのそのそやって来た。靴のかかとも踏みつぶしたりして、だらしないったらありゃしない。込み上げてくる怒りを何とかなだめてふいっと顔をそらした。
「勝手にしたら?そのかわり、私の邪魔は絶対にしないでよね」
「はーい」
この男はいないものと考える。何かに役に立ちそうなら使えば良い。ひどいことを平気で考えて、さっさと歩いて行く。まずは鎌倉の大仏へと足を向けた。
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