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「真下さーん。アイス食べよ~」
「真下さーん。おみくじ引こ~」
「真下さーん。お土産買おうよ」
「真下さーん。真下さーん」
うるさいうるさいうるさい!すごーく邪魔!ついてきた不良もどきは気になるものを見つけるたびに、私に話しかけて寄り道しようと笑う。予定通りにすませたいと怒る私のことは気にもしていない。
「予定通りじゃなくても良いじゃん。せっかくなんだし、遊ぼうよ」
子どもが瞳を輝かせるように笑うもんだから、ついつい私もアイスを食べたりおみくじ引いたりと遊んでしまう。なんで一緒に行動してるんだろう。この不良もどきのペースにのせられてちょっぴり苛立っていた。
「自分の班の人達と行動しなくて良いの?」
ベンチに座って抹茶アイスを食べていると、不良もどきはきょとんとして笑った。
「俺ってさ、いてもいなくても良い存在だもん。向こうだって、俺がいたら困るでしょ」
「そんなバカな格好してるからでしょ。普通にしてれば良いじゃない」
私が弟を叱りつけるようにきっつく言うと、不良もどきは何度も瞬きをして首を傾げた。
「真下さんって、俺のこと怖くないの?」
「なんで、怖いのよ」
できるだけ平静を保ちながら笑う。この不良もどきは目立った格好をして、当たり前に遅刻してでかい態度を取ってるものだから、クラスで浮いてるしちょっと遠巻きにされてる。私はただのバカだと思ってるけど、怖がられてるのは事実だった。
「そんなこと言うなら、私だって怖がられてるわよ。ちょっと睨んだだけで、慌てて逃げるヤツもいるじゃない」
「真下さんこそ、普通に笑えば良いのに」
何言ってんだか。この不良もどきのバカ男。
「真下さんって、結構、人気あるよ~」
「人気ある人間が一人で行動しているわけないでしょ」
バカバカしい会話を繰り返していると、目の前に影ができた。一緒に涼やかな高い声が降ってくる。
「すみません。写真撮ってもらって良いですか?」
白いヘアバンドをした童顔の女性だった。赤いギンガムチェックのスカートと白のニットが似合ってた。そばにはブラウンのジャケットを着て、細身のジーンズとどこかのブランド物のシューズをはいた男性も一緒。多分、絶対、カップルだろう。
「あの、私は」
「いーっすよ~」
片手にアイスを持っていた私は断ろうとしたけど、不良もどきはカメラを女性から受け取って写真撮影に向かう。大きな木と空を背景に写真を撮った後、女性と不良もどきが私を見ながら話してる。人が通ってるから騒がしくて、二人が何を話してるのかわからなかった。不良もどきが振り返って私に向かって手をぶんぶんと振る。
「真下さーん!一緒に写真撮ろー!」
「お礼に、撮りますねー」
だ、誰があんたなんかと一緒に撮るか!という叫び声は、喉を通ることなくお腹の中に引っ込む。ヘアバンドの女性のおせっかいだけど、心優しい提案に思わずうなづいていた。
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