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「なにをしているんだ、ユキ?」
「ユークレルド様」
夜。
屋敷の玄関の先に座っていたところ、中から人が出てきて声をかけられた。まさかのユークレルド閣下だ。
「ぼくの国ではこんなにはっきりたくさん星が見えたりしないので、すごいなーと思って見てました」
「そうなのか」
「はい」
「なぜ星が見えないんだ?」
と言いながら、彼はぼくのとなりに腰をおろした。
おお。これはぼく、いいのかな。閣下を地べたに座らせてしまったぞ。
「それを言ったら、こちらの世界の時空連続体を壊してしまったりしませんかね?」
「なんだそれは。まあ、言えないことなら無理に答えなくてもかまわないが」
ぼくにもよくわからない。まあ、いいかなあ? 今までとくに危険そうだったこともないし。
「大気汚染とか、あと地上の光が強すぎるから、だそうです」
「地上の光?」
「特に都会は、夜でもいろいろな照明がたくさんついていて、それでよく見えないんだそうです」
「ほお。それはすごいな」
「すごいのかどうかは、解釈による気がします」
「ふむ。おまえの世界はどうも複雑なようだな。おまえが思慮深いのもそのせいだろうか」
「ぼくは、普通だと思いますけど」
「そんなことはない」
ユークレルド閣下はなだめるようにぼくをなでなでした。
もはや子供でもなく、小犬かなんかになったような気分だ。
空を見上げる。
「今夜はとくに──」
「月がきれいだな」
おっと。
「どうかしたか?」
「いいえ。ちょっと、よけいなことを考えちゃいまして」
「よけいなこと?」
「なんていうか、漱石さん的なことを……?」
「ソウセキサン?」
「すみません、なんでもないです」
「教えてくれないのか?」
「時空連続体を壊すといけないので?」
「ほう」
「あの、顔が近いです」
「そうだな」
閣下は、ぼくの前髪をふっと吹いた。
「……っ!」
「おまえは知らないかもしれないが、私とて仲間はずれにされるとだいぶ傷つくのだ」
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