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ユークレルド閣下のお茶の時間には、ネヴェエス医師もおおむね参加していた。
さすがの彼も、ユークレルド閣下に逆らう気にはなれないらしい。
「レミー先生は、起きてる間はずっとメガネなの?」
と、フォーク(的なもの)でイレミレフさんのメガネを指した。
お行儀が悪いとかいうようなことは誰も口にしない。こちらではべつにお行儀が悪くないのか、言う意味がないからなのかはわからない。
「だいたいはそうですね。さすがに、お風呂のときなんかには外しますが」
「そーなんだ。じゃあ、先生の素顔を見るには、一緒にお風呂に入ればいいってことか」
「理屈としてはそうなりますかね。入りませんけど」
「えー」
「というか、べつに素顔を隠してはいないので、メガネくらい今すぐにでもとりますよ」
「それじゃああまりにロマンがないよ、先生」
おお、これは、えっちなBL展開のフラグかな?
とかなんとか、ぼくが勝手になんとなくそわそわしだしたところ、エメさんが思い出したように手を打った。
「そういえば、たしか露天風呂がありましたよね」
「え?」
「山のほうにすこし登らなければいけませんが、あったはずです」
「そうだったか?」
と、ユークレルド閣下。
「はい。このお屋敷に付随する施設の一覧に書いてあったと思います。我々がここに赴任してからは使用しておりませんので、いくらか手入れが必要かもしれませんが」
「全然記憶にない」
「テキトウにお読みになるから」
「おまえがきちんと読んでるからいいじゃないか」
ユークレルド閣下の言葉に、エメさんはすこし咎めるような顔をした。
しかし、温泉かー。
「興味ありますか、ユキ?」
「露天風呂とか、子供のころに家族旅行で行ったきりなので、あんまりちゃんとした印象がないです」
大人になってからは、ちょっとだけスーパー銭湯に行ったくらいだ。
「では、行ってみましょうか。せっかくなので」
「お、みんなで温泉? レミー先生のすっぴんが見られるチャンス?」
「行きたければあなたがたはあなたがたで勝手に行ってください。ユキは、わたくしと」
ネヴェエス医師の楽しみは、エメさんに即座にピシャリと打ちのめされた。
「なんでそんな冷たいこと言うの」
「彼を、殿方と一緒に入れるわけにはいきませんでしょう」
「いや、あの、ぼく、これでも中身は人間のおじさんなので。どっちかというとエメさんと一緒というほうが問題あるんじゃないかと思うんですが」
「だからといって彼らと行かせるわけにはいきません。ユークレルド様はともかく」
「なんでユークレルドだけ」
「ユークレルド様は、不埒な真似はなさいませんから」
「信頼してくれてうれしいがな、エメ。ふたりとて合意もないのに不埒な真似はすまい」
「合意がないのに無理強いをしないのは当然です。その場の雰囲気で合意が取れても適切な判断ができるのが紳士淑女というものです」
「はあ」
「ユークレルド様は立派な紳士ですが、彼らは、それよりも好奇心が優先するタイプですから」
「お、ぐうの音も出ない」
「私は、今さらっとネヴェエスと一緒くたにされたことが地味にショックなのですけども」
「それに、ユークレルド様であれば孕まされてもそれはディギンスフエラ家の子。わたくしが責任もって立派に育てあげてみせます」
「おや。母の跡を継ぎたかったのかエメ?」
「そういうわけではありませんが。そのときがきたらとは思っておりました」
「そうか。もちろんそのときにはおまえに頼むつもりだよ、私のエメレリーン」
「光栄です、閣下」
「あの、できれば孕まされるの前提で話を進めるのやめていただきたいのですが」
「あら。すみません」
「というか、おまえはどうなんだエメレリーン。自分だけ蚊帳の外にするのはずるくはないのか」
「さすがにそれは無理筋だとあなたもおわかりでしょう、ネヴェエス」
そう言ってエメさんを擁護したのは、さっきエメさんにネヴェエス医師と一緒くたにされて複雑な気持ちになっていたイレミレフさんだった。
地味に彼らの絆を感じるな、と思う。閣下の同級生ということは、たぶんふたりも幼なじみ的な関係なのだろう。
「知ってる。エメレリーンはこの中でも一番信頼性が高い人物だ。でも一応言ってみた」
「そうですか」
「あとハーフエルフの子供は俺も見たい。一緒に遊びたい」
「ぐぬぬ。さっそく好奇心に負けないでくださいよネヴェエス医師(せんせい)」
「俺はべつにユークレルドの子じゃなくてもいい。レミー先生の子のほうが楽しいかもな。エメレリーンにとられないで」
「たとえイレミレフの子であろうとも、あなたには任せません」
「だから子供ができるの前提で話を進めるのやめてくださいよう」
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