序 章:甘さか、優しさか、逃避か

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序 章:甘さか、優しさか、逃避か

「しっーしょー! めっちゃ、めっちゃ怖いです!」 「えぇぃ、大丈夫だ! それくらい我慢しろ!」  ガーネットの手のひらの上で震えているフォーネに、相田は3回目の同じ言葉を吐き捨てる。  白兎のフォーネは竜から見ればただの餌一択。さらに初めて見る地表との高さに、彼女の全身の毛は完全に逆立っていた。  王都に戻り、窮地に陥っている父親を助けに行きたい。王女の望みを叶えるべく、相田達は火炎竜のガーネットに乗って王都を目指している。  ガーネットをアリアスの村はずれで召喚してから1日が経過しているが、ガーネットの体力もまだ十分に残っている。あともう半日もすれば王都が見えてくる計算になる。 「相田………まずは王都にいるお父様のところに行きたいのですが」  リリアはこれまでに考えていたことを整理し、共有するために話を振り始めた。 「そうだな。俺もそれで良いと思う」  相田も飛んでいる間で考えていたことを整理するため、リリアの考えに賛同する。 「王都や城下町が被害を受けていなければ、そのまま城の中庭でガーネットを降ろす。だが、もしも街中で戦闘が起きていたら、リリアの部屋のテラスで降ろす。そして俺達はデニス隊長の所に向かうが、それでいいか?」 「はい。それで結構です」  状況に合わせた行動を事前に打ち合わせておく。細かい部分を詰めていけばきりがないが、大まかな部分を決めておくだけでも幾分か気持ちが楽になる。相田もリリアもその辺りは概ね一致しており、必要以上に『もしも』の話を互いに振ることはなかった。  相田の体がぞくりと震える。両腕には鳥肌が立ち、自然と奥歯に力が入った。  何度経験しても慣れない感覚。それが興奮から来るものなのか、恐怖からなのか、それとも風に当てられた寒さから来るものなのかは分からない。相田自身も、その原因を突きとめることはしなかった。
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