二月十二日

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二月十二日

 私はいつも自宅から真っ直ぐ病院に行く。この日だけは実家を経由して病院へと向かった。なぜなら実家に甥っ子が泊まっていて、彼をピックアップしてから病院へと行くことになっていたのだ。  数日ぶりの実家。母不在の実家に来たことなんて結婚して以来なかったはずだ。  父に上がって野菜を冷蔵庫から持っていって欲しいと言われて、しぶしぶ家に上がった。母が居ない実家はとてつもなく不完全な気がして、私は上がりたくなかったのだ。  そこでまったりする久しぶりな甥っ子に会った。やたらと大きくなっていて、しかも「ああ、おはよ」みたいな、ブランクを感じさせない若者に成長していて、ちょっぴり面白かった。  ああだこうだと父と何かを話ながら、私は野菜室を覗く。母の大好きなトマトが六個、スーパーの袋に入れられてそこにいた。あとは調理済みの里芋のパウチパック。それらを譲り受け、甥っ子を連れて実家から病院へ。 甥っ子はよく話すところが兄にそっくりで、マイペースなのは小さい頃とかわりない。  甥っ子の恋愛事情に耳を傾けながらあっという間に病院に到着した。  この日、母は前日の輸血のお陰でやはりかなり調子が良かった。甥っ子とも話していたし、父が呼びだした母の友人も短い間だったが見舞いに来てくれて、病室は賑やかであった。  わざわざ岐阜から来てくれた孫の為に、お小遣いをあげたいと父に言うほど気が回っていた。血液の力は本当に凄い。足らなくなったらほぼ寝てばかりいる母が、血液がしっかり巡りだすと途端に人のことまで気にかけられるようになるのだから。そんな母を甥っ子は思ったより元気そうで良かったと握手をして帰っていった。  私は甥っ子は乗せていつもより早めに病院を出発し、我が家の最寄り駅まで送っていき、そこで別れた。
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