二月十四日

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二月十四日

 この日は朝からずっと寝ていたように思う。輸血をしてから日にちが経ち、追加の輸血はしていなかったので、起きていられなかったのだと思う。  日中見ていた時も会話らしい会話はしなかったはず。その日は夜、父が病室に残る日だったので、三時頃交代し私は自宅に戻った。  母が入院してから、私は毎日出来るだけはやくベッドに行くようにしていたので、この日も確か九時にはベッドに居たと記憶している。なんとなく疲労感があったし、いつなんどき呼び出されるか分からないから眠れるときに寝ておこうと言うのが理由だった。  そして夜の十一時を回った時、枕元に置いておいたスマホがなった。私は飛び起きて電話に出る。 「もしもし」 「俺だけど、急いで来てくれとまた医者に言われたから」  父からの電話だった。私はわかったと答えて直ぐに電話を切った。  布団をはねのけ廊下を出ると、相変わらず娘の部屋のドアは全開で、デスクに座っている娘と目があった。 「病院行くよ」 「わかった」  娘は理由を問わなかった。電話で話しているのが聞こえていたのかもしれないが、こんな時間に病院へいく理由なんて一つしかないから聞かなかったのだと思う。  顔だけ洗い着替えて直ぐに一階のキッチンに行くと、キッチンのダイニングテーブルについていた旦那が振り返る。普段ならこの時間居ないことも多いのだが、その日は早く帰宅していてちょうど夕飯を食べ終えたタイミングだった。 「また呼び出されたから病院にいく」  旦那は私の言葉にすくっと立ち上がり「わかった」と、直ぐ様いく準備を始める。  自宅から病院まで、一時間だ。本当に危ない状態ならば、とても間に合いそうもない。日に日に衰えていく母の姿を目の当たりにしていたから、駄目なら間に合わないと覚悟は出来ていた。
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