二月十四日

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 旦那が居てくれたお陰で私は運転せずにすんで、なんとなくぼんやりとしながら車に揺られていた。  昼間通っている時とは随分と雰囲気が異なる景色。  初めに危篤になり、家族を呼び出したのはちょうど一週間まえの金曜日。  あの日亡くなっていたら叔父さんや甥っ子には会えなかった。そう考えると価値ある一週間だったと思うし、その間何度出血したかと考えるとそうではないとも思ったりした。辛さは出血だけではない。おむつになった屈辱とか、食べられない飲めないと言う物理的苦痛、それに恐怖心。母はどう思っているのだろうか。楽になりたければもう頑張る必要はないんだと言うのが、私たちの気持ちだった。  車中、居なくなったら寂しいと言う話は出ても、頑張ってほしいと言うことは誰も口にしなかった。  それでも母はまた耐えて危機を脱していた。私たちが着いた時には既に処置が終了していて、いつも通り苦しそうな呼吸をしながら寝ているように見えた。  来たよと声を掛けたら母は目を開き「皆で来たの?」と、まるで入院前みたいな普通さで返答してきた。  そんな母を娘と旦那に託し、父、兄、私の三人はまた別室に呼ばれて移動する。医師と向かい合わせて説明を受けるのは、よくない状況だ。わかっていても気が重かった。 「出血は収まりましたが、残念ながら状況は良くありません。鼻周辺の感染症が広がっていて、脳の方にも影が出来ています。始めの頃は、出血で命を落とす可能性が大きかったのですが、今は脳死と五分五分と言ったところでしょう」  医師は少しばかり間を置いてから、決断を口にした。 「それで、輸血はもうしない方針に変更いたしました。輸血をすれば元気になりますが、出血のリスクが上がりますし、患者さんの体に負担になると思います」 医師の言葉は私達の予想通りだった。 「出血すると苦しそうなんで」  おもわず私が言うと医師はしっかりと頷いた。 「この先、患者さんの苦しみを最小限にするように私どもでサポート致します」  医師の言葉に、横に座っていた男性看護師がうなずいてくれた。
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