二月十四日

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 入院した日から、成す術はなかった。それでも、なにか方法がないか模索してくださった病院の皆さんには感謝しかない。逐一、どの科と話し合いをしたかまで報告してくれた医師にもお礼を言いたい。信頼できる病院で良かった。  塞げない傷口、止められない出血、結果は始めからわかっていたのだ。  出血し輸血をしないなら、結果は聞かなくてもわかるのだ。重い気持ちで部屋を出て、母の居る病室へ。するとまたもや元気な母が娘と話しているのだから、私の気持ちは複雑になる。  苦しんで欲しくないから輸血はしなくていいと思っているのに、母はまだまだ話す力があり弱ってはいても言い方はおかしいが元気なのだ。  この母が死ぬのだろうか。案外、輸血をしなければ傷口が塞がって穏やかに回復するのではないかと、秘かに希望を持ちたくなる。  それぞれ心に複雑な感情を隠して、午前二時くらいまで楽しく談笑した。母は二時を過ぎたことを知ると皆に「もう、帰って」と告げた。まだ居るよと誰かが答えると手を振って「はい、解散!」とかすれた声で宣言した。危ない状態だからと呼び出された私達が拍子抜けするほど明るく言うと、得意のヒラヒラ揺らす振り方で皆を追い払った。 「じゃあ、明日また来るね」  笑いながら私が言うと、指でOKのジェスチャーをする。それを見た娘も「おばあちゃん、またね」と明るかった。  行きの重い空気よりはかなり良かったが、医師に言われたことを帰りの車で旦那と娘に話すと再び暗い雰囲気になった。 「さっき元気だったのに」  娘の言葉が全てだと思った。  さっきは元気だったのに、先週は元気だったのに、それでも母はもう長くない。死という現実が押し迫ってきているが、母はそれを感じさせない振る舞いをする。母が気がついてないはずがない。それでも明るく振る舞う母に脱帽するしかない。
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