二月十五日

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二月十五日

 前夜呼び出された私達は帰宅後直ぐに寝て、目が覚めるとまた母の元へ。  母は話をしながらうとうとするを繰り返すが、昨晩と同程度には会話をする力があった。  母のベッドを挟んで右側に私が、左側に娘が座っていた。 「そう言えばね」  私は実家から持って帰った野菜のことを思い出して切り出す 「実家に行ったらトマトを持っていってくれって言われて持って帰ったんだ。◯◯( 娘)トマト好きなんだよね」  母は大体話をして居る人間の方に顔を向けている。だから、その時も話している私の顔を見つめていた。◯◯(娘)の話を出すと、くるっと首を回して、娘の方に向き顔を見る。 「トマト、好き?」 「うん、好きだよ」  そこで私が「ミニトマトのお皿を出しておくといつの間にか全部食べちゃうんだよ」と、娘のトマト好きのエピソードを披露する。そう言う時は律儀に私に顔を向けてくれて、聞き終わるとまた娘の方に向き直る。 「おばあちゃんもトマト好きなんだよね?」 「トマト好き。◯◯(娘)ちゃんと一緒。嬉しい」 「◯◯(娘)も嬉しいよ、おばあちゃん」  トマトと一緒に里芋も持ち帰ったので「おばあちゃんは里芋も好きでしょ? ◯◯(娘)もだよ」と振れば、また母は「嬉しい」と娘に視線を投げていた。  この会話は、用事があって病室に来た看護師さんにより終了してしまったが、母が本当に嬉しそうだったので、まるでビデオに撮ったかのように私は鮮明に脳内で再生することが出来る。些細なことだけど、嬉しそうだった。いつか忘れてしまうのだろうか。あの表情を。出来れば覚えていたい。
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