二月十五日

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 どんなタイミングだったか正確なことは忘れてしまったが、母の出血はなんの前触れもなくやってくるし、その時も母と娘と三人で何かを話していたのだと思う。  ゲホっと言うよりゴボッと言う咳をしたので、私が慌てて母の背を立てて体を横向きにした。タラタラと口から流れ出す血液、再びゴボッと母は苦悶の表情で咳をした。私は手元にあるナースコールを押し、母の顔がある方にいた娘に「シートを口の下に敷いてあげて!」と指示をだす。 「吐き出して。飲まないで吐いちゃって」  母に声を掛けると母は、必死で何かを吐き出そうとする。  看護師さんが病室に直ぐにやってきて、母の口にビニール袋を宛がった。 「出来るだけ出しましょう。◯◯(名字)さん、聞こえる? 出してね!」  すると看護師さんの持っていた袋の中に大きな血液の塊がドバッと落ちた。それは私の握りこぶしくらいの大きさがあり、驚きのあまり目を見張った。塊が出てからも出血は収まらず、私と娘は駆け付けてきた看護師さんたちと入れ替えで病室から出た。  あんな塊、どこにあっただろうか。  その時は不思議だったが、後から聞いたところによれば胃の中で固まって吐き出された物だろうと言うことだった。と言うことは、あれは喉を通って出てきたのだ。考えただけでも苦しくなりそうだ。しかも母は鼻が塞がれているのだから。  ビニール袋半分程の吐血。娘はしっかり見てしまって、少し気分が悪くなっていた。  その後、廊下で話してくれた看護師さんによれば、母は血便も出ていると言う話だった。表にはそんなに出てきて居なくても、母の出血はずっと止まらずに喉を通って体内へと落ちていたことになる。時間をかけて大きな塊になるほどの出血だ。輸血はしていないのに。
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