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誰のせい?
恭平がこんな性癖に目覚めたそもそものきっかけは、再会した夜、というか翌朝のことだ。タケちゃんのシフトが終わるのを待って、タクシーで彼のアパートに帰った。恭平は抱かれる気でいたし、向こうだって抱く気でいたと思う。それなのにシャワーを浴びたら急に不安になって、恭平は「やっぱりお尻なんて怖い」とわがままを言った。タケちゃんにすれば据え膳をいきなり下げられたようなもんなのに、彼は「そりゃそうだよな」と笑って、そのうえ、わがままとは裏腹に興奮しきりの恭平の体を慰めてくれさえした。唇や性器はもちろん、脇腹や膝の裏みたいななんでもない場所までくまなく優しい手が撫でて、胸をちゅうちゅう吸われたら、犬歯の先がチクン、チクンと乳首を掠めた。タケちゃんは気づいてないだろう。性器への刺激より乳首が気持ちよくて極めたなんて。その快感を忘れられぬまま火遊びは次第にエスカレートした……。
もういっそバレてしまえば楽になるんじゃないかと思うけど、結局、今日も口から出たのは言い訳だった。
「シたくないわけじゃないんだけど……その……ちょっとお腹ゆるくて……」
「そっかぁ。それは仕方ないな。さすったげるからこっちおいで」
とってつけたような断り文句にも拘わらず、タケちゃんは包容力を絵に描いたような顔でコタツに寝転んだ。かと思えば、おいでおいでと体の隣のスペースを叩く。甘えて身を寄せればすぐに首筋に唇が触れた。広い手がくちくなったウェストをとらえた。あったかくて気持ちいい。お腹がゆるいと言うくせに夕飯をたらふく食べて膨らんだ胃がうしろめたかった。
「……ところで恭平、ちょっと確認なんだけど……」
「え……?」
しかし、温かかった手のひらがにわかに意思を持ち、好奇心を帯びた。
「あっ、ちょっ……!」
息を飲む暇も与えずまっすぐ脇腹を這い上り、気づけば胸元をうろつく五本指。暗闇で照明スイッチでも探すような動きがとうとう目的の場所で止まった。
「脱衣所からこっそり洗濯バサミを持ってってる悪い子はだーれだ?」
「やっ、あっん……!」
キュッと絞られる刺激に背筋が強張った。右……左……両方……。
「……ふっ、く、あっ……」
「あと、もいっこ確認。人のクレカでエッチな動画買ったのは誰だ?」
何も考えたくなくて、ただ身を守るように力いっぱいスウェットの裾を押さえつけた。もちろん意味などなかった。それどころか体をつっぱったせいで余計にまずい。指が深く食い込んで混乱と快感に脳髄が痺れた。おまけに頭の片隅ばかり冴え、ああ、あのときタケちゃんのアカウントのまま買っちゃったんだとピンと来た。
「恭平、お乳見てもいい?」
「っ、だめ……!」
「……そしたら、今、恭平が受け持ってる子たちが全員第一志望受かったとこ想像してごらん?」
「へ?」
その謎の指示とともに、乳首を離れたタケちゃんの片手が、握ったままの恭平の拳をやんわりとほぐした。
「想像できた?全員だよ、全員。じゃあ、はい、丘先生、バンザーイ」
「っ……!……やだぁ……」
こんなの全然バンザイじゃない。警察にホールドオンアップさせられる凶悪犯だ。手を挙げろ、抵抗したら撃つ。なすすべもなく両手を挙げた恭平の肌着ごと、タケルはゆっくりスウェットをめくり上げた。
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