また今度

1/1

84人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

また今度

 冬の賄い飯は鍋の確率が高い。仕込み量に比例するから当然といえば当然だ。今日はこないだのちゃんこ鍋とは打って変わって魚介の味噌鍋。厨房でいちばん深いタッパー容器を借りて帰ったら、ザリガニやオタマジャクシを泥水ごと持って帰ってくる小学生みたいだとまた恭平に笑われた。 恭平はあれから毎晩、軟膏を塗っては絆創膏を貼り替える作業を繰り返していた。どこにって、それはもちろん決まっている。しばらくは痒い痒いと泣きべそをかいていたけど、昨日ようやくふやけた古い皮膚がぺろんと剥けて、ピンクの乳首が顔を出した。  ピンポンとインターホンが鳴り「宅配便です」と声がしたのは、薬味のニンニクをおろしている最中のことだった。 「恭平ー、出てくれるー?」 「はーい、いま出ますー」  ふたりの関係が深まったお祝いに、昨日ちょっとした贈り物を買ったのが早くも届いたんだろう。案の定、キッチンに駆け込んできた恭平は興奮した面持ちだった。送り主で中身がピンと来るあたりさすがだ。 「タケちゃん……これって……」 「そうだよ。まだちゃんとログアウトしてないでしょ。広告にめっちゃ出てきてる」 「っ……」  そういうのをターゲッティング広告と呼ぶ。恭平が捧げ持っている箱は意外に大きかった。たぶん付属品のせいだ。シンプルなニップルピアスと、それを自宅で開けるための諸々のアイテムをまとめて注文した。専用の消毒剤やニードル、外科用のビニールグローブなどなど。 「今日……?」 「恭平に任せるけど、お酒飲むなら今度にしたほうがいいかもね」 「だよね……」  飲酒してボディピアスなんか開けたら出血が大変なことになるし、開ける人間の手元が狂わないとも限らない。恭平の目は残念そうにも見えたし、期待しているようにも見えた。まぁ、焦ることはない。時間はいくらでもある。それに、やれ舐めてほしい吸ってほしい噛んでほしいとリクエストだってたんまり残っているんだから。  早くも主張しはじめたそこをくりくりくすぐると、恭平の形の良い顎はうっとりと天井を仰いだ。 END
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加