私が召喚された理由

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柚子はアズールスと朝食を済ませた後、アズールスの自室に呼ばれた。 柚子がアズールスの部屋に入るのは、これが始めてだった。 物は多くないが、よく掃除が行き届いていた。 窓を背にしてソファーに座るアズールスを、爽やかな朝日が照らしている。 柚子は光に目を細めながら、アズールスの向かいのソファーに座ったのだった。 「改めて、何から話すべきだろうか……」 「それも大事かもしれませんが、どうして急に言葉が通じる様になったのでしょうか? 昨日までは全く通じなかったのに……」 柚子は首を傾げた。 あの後、柚子は二人を呼びに来た少女だけではなく、老婆とも言葉が通じるようになっていた。 老婆はアズールスから説明を受けて驚いていたものの、先に二人の朝食を用意してくれたのだった。 少女と老婆には、後ほど、アズールスと話し終えた後に、改めて挨拶をするという事になったのだった。 「それは……。俺にもわからない」 「そうですか……」 落胆するアズールスの姿に柚子も肩を落とす。気を取り直して、柚子は話題を変えたのだった。 「それで、お話しとは何ですか? それより、お仕事に行かなくていいのでしょうか……?」 「ああ。公文書館ーー仕事先には、今日は仕事を休むと伝えてもらった」 「え!? 公文書館で働いているんですか!?」 突然、柚子が食いついたからか、アズールスは驚いて青色の目を瞬いたのだった。 「そうだが……。公文書館がどうかしたのか?」 「いえ……。ちょっと気になったので、つい……」 公文書館とは公務員が残した歴史的な資料を集めて管理をしている資料館である。 柚子がいた世界では、歴史的な資料以外でも外交や政治に大きく関わった報告書やメモなどの類いも保管して展示をしていた。 学生時代、柚子は図書館か公文書館のどちらかに就職を目指していた。 公文書館の求人は滅多に空きが出ない上、ほとんどが契約社員であった。 そして、柚子が就職活動をしていた頃、たまたま公文書館の求人に空きがなかった事もあり、公文書館ではなく図書館に就職をしたのだった。 「俺が働いているのは軍関係の資料を扱った公文書館だが、興味があるなら近々見学に来てみるか?」 「い、いいんですか?」 軍関係という事は、門外不出の資料や関係者以外閲覧出来ない資料もあるのでは。と柚子は不安になる。 だが、アズールスは安心させるように微笑んだのだった。 「大丈夫だ。一般人にも公開しているからな。俺の家族って事なら、申請や許可を待たずにすぐにでも見る事が出来るし、何なら、一般人に公開禁止の資料も見る事が来るぞ」 「そこまではさすがに……。それよりも、家族ってどういう事ですか?」 柚子が首を傾げると、アズールスは困ったように俯いたのだった。 「それーー家族こそ。ユズをここに呼んだ理由の一つでもあるんだ」 「呼んだ……? じゃあ、私がこの世界に来たきっかけはアズールスさん何ですか?」 アズールスは顔を上げて柚子を見つめると、大きく頷いたのだった。 「順を追って説明しよう。ユズがここにーーこの世界に来た方法とその理由を」 アズールスの説明によると、柚子をこの世界に召喚したのはアズールス自身らしい。 この世界には、かつて魔法を使えた者たちが大勢いた。 今では少数になってしまったが、魔法使いや魔女といった者達が政治や経済の中心にいるらしい。 アズールスの一族の先祖には魔女がいたらしく、魔女が持っていた魔法の力ーー魔力と、魔女の魔力が宿った持ち主の願いを叶える書ーー召喚書を代々、アズールスの当主一族が受け継いでいるらしい。 その持ち主の願いを叶える書こそが、アズールスが柚子をこの世界に召喚するのに利用した召喚書があった。 長い年月の中で、魔力は失われてしまったが、召喚書にはまだ魔力が残っていた。 アズールスはその召喚書を利用して、自身の「とある願い」を叶える為に、柚子をこの世界に召喚したのだった。 そして、そのアズールスの「とある願い」を叶える為に、柚子が選ばれたのは偶然らしい。 アズールスの「とある願い」を叶えられ、アズールスと相性が合いそうな人物を、召喚書が異世界の住人の中から選んだのではないかとの事だった。
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