私が召喚された理由

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「その、アズールスさんの『とある願い』とは何ですか?」 アズールスは「それは」と言いかけると、口ごもったのだった。 「……先に言っておくが、これが完遂されなければ、元の世界に帰る事は難しい」 アズールスが何を言いたいのかわからず、柚子は首を傾げる。 「はあ。それで、その肝心の『とある願い』とは何ですか?」 アズールスは息を吐くと、柚子を見つめながら話したのだった。 「どうか、俺の子供を産んで欲しい。それが元の世界に帰る為の条件だ」 柚子は最初、何を言われたのか理解出来なかった。 頭の中で何度も繰り返して、ようやく理解出来た。 そうして理解出来た時、柚子は声を上げたのだった。 「え、え〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」 柚子の叫び声に、窓辺にいた鳥達が一斉に羽ばたいた。 「こ、子供!? アズールスさんと私の!? だって、私達はまだ出会ってばかりで! お互いのことを理解していなくて! そもそも結婚していないし!」 「ユズ、落ち着け」 「それ以前に、私、子供を産んだ経験も無ければ、男の人とお付き合いした事さえ無いし!?」 頭を抱えて混乱する柚子を、アズールスは両肩を掴んで落ち着かせようとした。 しかし、それも駄目だと気づくと、アズールスは部屋に備え付けのベルを鳴らして、少女を呼んだのだった。 「ユズの為に、お茶を持ってきてくれ! 急げ!」 部屋にやって来た少女は取り乱している柚子の姿に驚いたものの、アズールスに言われて何度も頷いた後に、部屋を飛び出して行ったのだった。 「ユズ、落ち着け! 落ち着くんだ……!」 アズールスは柚子の隣に座ると、優しく肩を抱いてきた。 しかし、柚子は顔を真っ赤にしてアズールスを突き飛ばす。 「い、嫌です! 好きでもない人の子供を産むなんて! 子供を産むってことは、『あれ』をするって事でしょう!?」 いくら男と付き合った事が無い柚子でも、子供がどうすれば産まれるのかは知っている。 その為に男女で「何を」するのかも。 「しかし、それではユズは元の世界に帰る事は出来ないんだぞ……?」 「それでも嫌です! 私は自分が好きな人との間に子供を産みたいんです! そんな、目的の為だけに子供を産むたくないんです!」 それに、そんな目的の達成の為だけに子供を産んでも、その子供が可哀想ではないだろうか。 柚子は怒りで涙目になりながらも、アズールスを睨みつけた。 「とにかく、私は子供を産みません! 元の世界に帰れなくても構いません! あなたとの間に子供を作りたくないんです!」 「失礼します!」と肩を怒らせながら、柚子は部屋から出て行く。 後ろから、「俺との間が嫌なのか……」と呟く声が聞こえたような気がしたが、柚子は無視したのだった。
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