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次の日、朝になっても柚子とアズールスの間に会話は無かった。
どちらかから話しかけようとしても、ぎこちない空気だけが、その場を漂ってしまう。
マルゲリタとファミリアもどうすればいいのかわからないようで、困惑しているようだった。
柚子自身もこのままではいけないと思う。
けれども、どうすればいいのかわからなかった。
この日もアズールスと特段話す事もなく、きっかけもないまま、また別々に寝たのだった。
そうして、柚子はまた夢を見る。
この間の家族の夢だった。
今度は屋敷の中のとある部屋の中に立っていたのだった。
時間が経ったのか、昨夜の子供達は成長していた。
兄と呼ばれていた男の子は十歳くらいになっていた。
背丈も伸び、背筋もピシッとして直立していたのだった。
そんな兄の前には、父親と母親、少し成長した弟と妹が並んでいた。
何故か、母親は父親に肩を支えられて泣いており、弟妹も泣いていたのだった。
「どうしても、その学校に入学するのね」
「はい。お母様。僕はお父様の様な立派な軍人と跡継ぎになる為に、軍人を目指す子供達が大勢入学する、この士官学校に入ります」
どうやら、兄は学校に入学するようだった。それを母親と弟妹は悲しんでいるらしい。
「おにいさま……」
「おにいさま、いかないで……」
「お前達、今生の別れではないのだから、そんなに悲しむのはやめなさい」
「だって……。 おとうさま」
「それに、学校が長期休暇の時は帰省出来るのだ。手紙のやり取りも出来るのだから」
「でも、でも……」
妹が鼻をグズグズ言わせながら、父親に言い返そうとしたが、言葉にならなかったようだった。
次第に、兄の顔も曇っていったのだった。
「貴方、わかっております。けれども、学校は全寮制なのです。わかっておりましても、愛する息子と離れる事になって、悲しくないわけがありません……!」
母親はそう言い切ると、顔を覆って嗚咽を上げた。
父親はそんな母親を支えながら、空いた手で弟妹を抱きしめた。
そうして、兄をじっと見つめたのだった。
「必ず、立派に成長して戻って来い」
「もちろんです。お父様。それまで、どうか、お母様と弟達をお願いします」
直立不動のまま、背筋を伸ばす兄の姿に、父親は嬉しそうに笑ったのだった。
「頼もしくなったな。アズールス」
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