夢1

2/2
191人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
次の日、朝になっても柚子とアズールスの間に会話は無かった。 どちらかから話しかけようとしても、ぎこちない空気だけが、その場を漂ってしまう。 マルゲリタとファミリアもどうすればいいのかわからないようで、困惑しているようだった。 柚子自身もこのままではいけないと思う。 けれども、どうすればいいのかわからなかった。 この日もアズールスと特段話す事もなく、きっかけもないまま、また別々に寝たのだった。 そうして、柚子はまた夢を見る。 この間の家族の夢だった。 今度は屋敷の中のとある部屋の中に立っていたのだった。 時間が経ったのか、昨夜の子供達は成長していた。 兄と呼ばれていた男の子は十歳くらいになっていた。 背丈も伸び、背筋もピシッとして直立していたのだった。 そんな兄の前には、父親と母親、少し成長した弟と妹が並んでいた。 何故か、母親は父親に肩を支えられて泣いており、弟妹も泣いていたのだった。 「どうしても、その学校に入学するのね」 「はい。お母様。僕はお父様の様な立派な軍人と跡継ぎになる為に、軍人を目指す子供達が大勢入学する、この士官学校に入ります」 どうやら、兄は学校に入学するようだった。それを母親と弟妹は悲しんでいるらしい。 「おにいさま……」 「おにいさま、いかないで……」 「お前達、今生の別れではないのだから、そんなに悲しむのはやめなさい」 「だって……。 おとうさま」 「それに、学校が長期休暇の時は帰省出来るのだ。手紙のやり取りも出来るのだから」 「でも、でも……」 妹が鼻をグズグズ言わせながら、父親に言い返そうとしたが、言葉にならなかったようだった。 次第に、兄の顔も曇っていったのだった。 「貴方、わかっております。けれども、学校は全寮制なのです。わかっておりましても、愛する息子と離れる事になって、悲しくないわけがありません……!」 母親はそう言い切ると、顔を覆って嗚咽を上げた。 父親はそんな母親を支えながら、空いた手で弟妹を抱きしめた。 そうして、兄をじっと見つめたのだった。 「必ず、立派に成長して戻って来い」 「もちろんです。お父様。それまで、どうか、お母様と弟達をお願いします」 直立不動のまま、背筋を伸ばす兄の姿に、父親は嬉しそうに笑ったのだった。 「頼もしくなったな。アズールス」
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!