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気を失った柚子が次に目を覚ました時、辺りは明るくなっていた。
目が慣れてくるにしたがって、ここが自室では無い事に気がついた。
そうしてーー昨夜が夢ではなかった事も。
昨夜の事を思い出した柚子は、恐怖から気分が悪くなった。
口を押さえていると、柚子が気を失った時には無かった、柔らかな毛布にくるまれている事に気づいた。
「——」
隣から寝息が聞こえたと思ったら、毛布越しに温かい肌色のものがお腹の辺りを包んでいた。
よくよく見ると、それは何者かの腕であった。
柚子が隣を向くと、そこには気持ち良さそうに眠っている見目麗しい青年がいた。
自分の右腕をくの字に曲げて枕代わりにして眠る横顔には、青年の胸辺りまでの長さの黒髪がかかっていた。
(黒髪? まさか、昨夜の?)
柚子は顔を真っ青にして、再び、気持ち悪くなりながらも、青年の姿をよく観察した。
青年は白色のシャツ一枚に黒色のズボンだけで毛布もかけずに、柚子を抱き枕のようにして眠っていたのだった。
柚子はそっと青年の顔にかかる黒髪を肩に流す。
すると、青年はゆっくりと目を開けたのだった。
サファイアの様な吸い込まれそうな青い瞳に見惚れていると、青年はやや垂れ目がちな目を大きく見開いた。
そうして、上半身を起こすと、柚子を見つめながら何かを問いかけてきた。
「—————。————————?」
柚子は全く言葉が分からず、首を傾げた。
青年も困ったように、何度も話しかけてくるが、柚子は首を傾げ続ける事しか出来なかったのだった。
青年が困ったように、黒髪を掻き上げたその時。ベッドの向かいにある扉が控えめに開いた。
青年とニ人で扉を見つめていると、扉からは十歳くらいの少女が顔を出したのだった。
肩までの長さの茶色の髪を、三つ編みのおさげにしている少女は、柚子と青年に気づくと驚いた顔をした。
「———————!?」
スモーキークォーツの様な茶色の瞳を大きく見開いたまま、少女は何事か叫びながら扉から離れた。
そうして、軽やかな足音を立てながら、走り去って行ったのだった。
すると、青年もベッドから起き上がると、慌てて少女の後を追いかけて行ったのだった。
「一体、何なの……?」
部屋に取り残された柚子の呟きだけが、室内に虚しく響いたのだった。
やがて、青年が着替えて、柚子がいる部屋に戻ってきた。
「———。————? —————」
青年は声を掛けると、柚子に向かって手を差し出してきた。
困惑した柚子が手を取らないでいると、青年は差し出した手を一度引っ込めると、今度は優しく柚子の肩に触れてきた。
その時、柚子は昨夜の恐怖をまざまざと思い出してしまった。
真っ青になった柚子を心配するように青年は見つめてくるが、柚子は青年の手を振り解くと目から涙を溢れさせた。
突然泣き出した柚子の姿に、青年が戸惑っているのがわかった。
青年がオロオロと青い瞳を彷徨わせていると、扉が控えめにノックされた。
すると、先程の少女と少女に手を引かれるように、人当たりの良さそうな六十歳ぐらいの老婆が部屋に入ってきたのだった。
少女は柚子達を指差すと、老婆に何事かを訴えていた。
老婆はうんうんと頷くと、柚子達に近いてきたのだった。
老婆は柚子が泣いている事に気づくと、少女と同じ色の茶色の瞳を大きく見開いた。
そうして、青年に向かって何かを叫んだ。
「———! ———————!!」
「—! ————。—————-!」
しばらく、青年と老婆は何か言い争っていた。
その間に柚子に近いてきた少女は、柚子にニコッと笑いかけてきた。
その笑顔を見た柚子は、安心して小さく微笑んだ。
すると、言い争っていたはずの青年も、柚子の微笑みにつられる様に笑みを浮かべたのだった。
それから、老婆によって青年は部屋から追い出された。
柚子は老婆に手伝ってもらいながら、熱い湯とハーブの様な爽やか香りのする石鹸で身体と髪を洗った。
その後、少女が持ってきたシンプルなデザインの膝下までの丈の紺色のワンピースに着替え、冷たいタオルも渡された。
少女の目を冷やすように身振りで伝えてくるところから、柚子の目が腫れている事に気づいて持ってきてくれたらしい。
目にタオルを当てて冷やしている間に、一度部屋から出て行った老婆が軽食を手に戻ってきた。
温かそうな湯気を立てるスープと柔らかそうなパンを見ている内に、柚子は昨夜から何も食べていない事を思い出して、お腹が空いてきた。
テーブルの上に老婆が軽食を置くと、柚子はその近くのソファーに座って軽食を食べたのだった。
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