声をなくした少女

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火葬が終わり骨だけになった鈴子を見て、苗はますます泣き出した。まだ、母親の死を受け入れられない。 この葬儀は誰しも忘れることのできないものだった。 もめ事が解決しないまま、輝彦は苗を連れて家に帰った。秘書の川嶋葉子も同伴していた。 苗には、川嶋が社長である輝彦の妻の座を狙っているように見えた。お互いに慣れ親しんでいるかのようだった。 「川嶋くん、苗を頼めないか?この不景気で接待は絶対に避けられない。取引先を減らすわけにもいかない……」 輝彦には、頭を抱えることが多かった。 妻の鈴子の死、残された苗、会社のことも…… 川嶋は輝彦の肩に手を差しのべたけど、 「川嶋くん、今は1人になりたい。苗を見てやってほしい」 と言われて、輝彦を1人にした。 1人きりになった輝彦はゆっくり涙を流して悲しみに暮れた。 苗は鈴子の部屋に入って愛用していた人形を抱きながらベッドに寝そべり泣いていた。 川嶋は次の社長夫人のポジションを狙い始めた。しかし、輝彦と結婚すると言うことは苗を娘として受け入れなければいけない。川嶋には苗の母親になりたいと言う気持ちはほとほとなかった。ただ、輝彦と結婚したいだけだった。 問題はそれだけにおさまらなかった。輝彦には隠し子もいたのだ。苗には知らされていない。母親を失ったばかりの苗には今は口が裂けても言えない真実だった。
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