その愛は霧と街の夢

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――あぁ、卑しき街よ。僕から全てを奪った衰退よ。  幾度の辛酸をなめた。全てを失ってから五年。ジャックはホールクロックを前に、物思いに耽ていた。  町から出る許可が出る適正年齢になるまで、多くの汚れを知った。一度どん底に落ちた彼は流れるように下位の下位まで落ちた。小さな町だ。噂は広がり表での仕事は見つからない。いっそ自殺しようとも考えた。  そんな中、彼が生きる道を突き進めたのはこの街のことがあるからだろう。いや、この街ではなくこの街の中にあるはずのモノ。母が見つけられなかった父の痕跡。  異常な霧についての解明は未だにされていない。そもそも、この街と周囲の探索は極めて困難だった。調査を開始しようとすれば意図的としか思えないほど霧は濃くなる。現代技術では無理であり、進歩による新たな調査法を開発しないことには手を付けられない状態だ。  そんな恐ろしい街に一人の青年が挑む。  街の奥へと進むたびに霧は濃くなる。それでもジャックは臆さず進む。ボニーが言っていた一寸先も見えない霧に包まれる。でも、ジャックは進む。  ――聞こえるんだ。心音のような、吐息のような、呼吸みたいな小刻みな音が。僕を誘うように。  ジャックは足を速める。そして、それは聞こえてきた。  鼓膜を刺激する爆音。それなのに心地よい重低音。町全体を包み込むような鐘の音。  ゴーン。ゴーン。ゴーン。  その鐘の音はジャックの古い記憶を呼び覚ました。母の言葉。 「今となっては、ホールクロックは霧と衰退なんて言われてるけどね。私たちが住んでいた頃は違ったわ。人々はあの町をこう呼んでいたの」 ――栄光と時計の街ホールクロック。
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