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聞いた通りだった。
いつのまにかジャックの中の時間間隔は狂っていまっていた。時計の街というだけあった街のあちこちに様々な時計が置かれ掛けられしているが、そのどれもがグルグルとかなりの速さで回り続けている。しかし、日暮れはなくよく観察すれば人々はその場をグルグルと回っているだけだった。
この夢から出る手掛かり、藍色の布の少女は見つからない。母は協力的だが、あまり外には出ない。白髪の男は色々なところを歩き回っているが、それは通常運転の様だった。
ジャックはいっそこの夢にずっと囚われることも考え始めていた。現実に良いことはない。ここには、母もいる。ずっとここにいても悪くはない。
よくよく考えれば、外に戻る理由も大してないのだ。置いてきた想い人などもいないし、そもそもここに来たのは母や父の痕跡を求めてだった。旅の終着点だった。
「悩んでいるね」
「あっ、どうも」
いつもまにか、男が横に立っていた。
「先に言っておこう。君の母親は君の想像以上に聡明だ。彼女は、私が助言する前にこの場所を夢ととらえていたし、現実の彼女自身の肉体についてもある程度の予想を立てている」
「母は、意識不明で。病院からも追い出されて、捨てられました。僕のせいです。……もう一度、僕は母を捨てないといけないんでしょうか」
「ありきたりな言葉だが、あるべき場所に返すべきだと考える。彼女のあるべき場所はここではない。肉体を失ったのならば魂を解放してあげるべきだと思うが」
「残酷なことを言ってくれるんですね」
「君のためだ」
男はゆっくりと歩き始める。ジャックはついて行くこともなく、ただその場に立ち止まっていた。
「貴方は、街にとどまることを選んだからこの夢に囚われたと言ってましたよね」
「ああ」
「じゃあ、あなた以外の残った人たちはどこにいるんですか?」
「どう考える?」
さっと、男が言うと周囲に霧が立ち込む。初めてこの世界が違う表情を見せてきた。
「整理すればするほど疑問が浮かんだ。僕と貴方、母以外に自由に歩き回っている人物が見つからない。夢から解放されたのか、そもそもいなかったのか」
「なるほど、君はこの世界が街の夢だと信じていないわけだな。この私が見ている夢だと。私が夢の主だと思ったわけだ。しかし、それであの少女は? 君の母は?」
「少女は貴方の記憶に存在する。そして、母と僕も。だから僕らは夢に引き込まれた。違いますか?」
「半分正解だ」
一寸先も見えない霧に包まれる。心のどこかで目を覚ますことへの希望と母と別れることの悲しみを抱いたが、霧が晴れた時男がいないだけで、まだ夢の世界のままだった。
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