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目を覚ましたのは、フユカの膝の上だった。
私の頭を膝にのせて携帯をいじっていたフユカは、すぐに私の目覚めに気づくとペットにかまうように無言で頭を撫でてきた。
ゆっくりと体を起こすと、私の部屋。
「玄関で倒れていたんだよ。具合悪いなら病院行く?」
「いや、そういうのじゃないから。ちょっと眠かっただけ」
「ふーん、大変ね」
ふと鏡を見ると、顔がぐちゃぐちゃになっていた。そういえば思いっきり泣いたんだった。
さっきの言い訳がバカバカしく思えたけど、倦怠感のせいで訂正するのもやる気にならない。ふーん、で終わらせてくれたわけだし今回はフユカに甘えさせてもらおう。
「失恋?」
「えー、聞くのそれ?」
やっぱり、フユカはフユカだったか。
「だって、あんたらしくなくオシャレなんかして出ていったと思ったら、そんな顔で帰ってきて倒れているんだよ? 失恋でしょ」
「はいはい、で? だったら何?」
フユカは無言で携帯を置くと立ち上がり私の周りをぐるりと回る。そして、ベットに押したおすとその上に覆いかぶさってきた。もうなんか色々と面倒くさかった私はその行為に対してため息一つしか出ない。
フユカの顔が近づいてくる。
「どうして?」
「フユカが戻ってきたから、終わらせた。そういうこと」
適当にそういうと、彼女は顔を引いてまんざらでもなさそうに微笑んだ。本当、何もかもあんたのせいだ。
「よかった」
そう呟いた彼女は自然な動作で、私の首に口づけをしてきた。ぞわっとした感覚が全身を駆け巡った。慣れたような動作と、「今はここまで」とい余裕の表情を見せた彼女に言葉を失う。
携帯を手に取り、彼女は仕事に向かった。時間を見ると、フユカがお店に行く時間をもう一時間以上超えていた。
たぶん、携帯をいじっていたのも店の人と連絡を取り合っていたのだろう。自分のやりたいことが出来たら、他を後回しにする。それなのに、何もなかったように後回しにした物事に参加する。
フユカは、依然変わらない。
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