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10 CENTER CORE OF THE GOVERNMENT A.D.2121
違法hIEの取り押さえは失敗した。というのも日本軍のヘリボーン部隊によって電算二課から日本軍へ証拠物件である違法hIEが強奪されたのだ。ゼネラルサイバネティクスの国際認可されていない可変超高度AIは日本政府とつながっており、輸出困難な日本のレッドボックス=人類未到産物をアメリカのレッドボックスと掛け合わせて密かに日米共同の次世代対戦車hIE開発計画を推進していたのだ。当然IAIAに知られてはならない計画である。従って性能試験は大っぴらにできないため日米で民間に流しフィードバックを受けるという手法を用いた。もちろん時折技術実証機という形で演習場で試験はしていた。ただまだ未知のレッドボックスと認識されるほどのものではなかった。せいぜい戦車1台相手にするのが限度だった。
今回強奪された違法hIEはこれまでと違いレッドボックスを活用したフルスペックテスト機体の模様だ。たった1機で戦車中隊を全滅させることが可能でかつ民間人に偽装できる。つまり戦争が始まる過程で軍事力の事前集積を敵国に悟られずに、敵中枢に戦車を遥かに超える能力を持った戦力を結集できるのだ。これが可能になれば戦争は新たな時代に突入する。
日本政府の企みに気がついた超高度AI「たかちほ」は警察庁電算局電算二課にわずかな望みを託した。白瀬ユイは日本政府がその中枢を置いている高さ2000mの超超高層ビル「センターコア」に単身乗り込む。罪状はIAIA憲章に基づく「超高度AIと人間社会の共存に関わる条約=IAIA条約」を侵害した罪。警察庁はすでに手を引いており、軍の圧力が政権を支配しようとする中、白瀬ユイは容疑者と目される与党幹部の逮捕に向けて動き出す。生きて帰れる保証はない。ゼネラルサイバネティクスの部隊が待ち受けているからだ。
「セリアはここから電子戦と狙撃。射程15㎞のレールガンよ。」
「マスターは無謀です。上層部は本件から手を引きました。ここでなぜ命を張るのですか!」
「ルールを無視した世界秩序の崩壊を食い止めるため。それ以上でも以下でもない。」
時が経ち、本件は多くの人が知るところとなった。日米両政府は事実を認め計画は中断された。しかし形を変えて次世代対戦車hIEは実用化された。皮肉にも本件の違法hIEのコンセプトが諸外国で着目され、共有され、研究されたことで、日米の潜在敵国である第3国において実用化されるに至ったのだ。
あの日センターコアで起こった銃撃戦で死亡した人間は誰もいなかった。そこにあったのは無数のゼネラルサイバネティクスの武装hIEの残骸と、「白瀬ユイ」と書かれた警察手帳を所持する次世代対戦車hIEが稼働を停止した姿であった。でもセリアは覚えている。確かに彼女が”人”として存在した日々を。
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