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01 AKIHABARA TECH LAB A.D.2120
2120年、秋葉原のとある研究所。応用ロボット工学の専門的な知識を借りに警察庁電算局電算二課の捜査官・白瀬ユイが訪れていた。日本政府の超高度AI「たかちほ」からの調査要求が下りてきたためである。電算二課はAIによる犯罪を担当する部署だ。
この研究所ではアスリート仕様のhIE(アンドロイド)の研究開発が行われており、国際競技大会ではトップスコアを出す常連だ。ユイはこの案件の全貌を把握していない。国家機密やそれに準ずるものに関わるリスクマネジメントが働く場合は末端の捜査官には大抵シンプルな要求事項しか与えられないのである。今回はアスリートクラスhIEの高度化に伴う社会的汎用性の動向を探れとのことだった。実に漠然としている。
ユイは少女型hIEセリアとバディを組んでいる。相棒を少女型にしているのは一般人に威圧感や警戒感を極力与えないためである。若い女性二名ならば人々は比較的温和な態度をとってくれると警察官3年目にして知見を得た。
「ユイさん、アスリートクラスから民生用に転用される技術は多岐にわたります。例えば省電力高出力のアクチュエーター。基本的に高コスパな技術ですね。災害などで無線送電インフラが途絶えた時、高級機は内部バッテリーで1週間災害復興支援に充てることができます。」
「有坂カレン主任、まだコストが高く一般化されていない技術について教えてください。特に需要がありそうな類の。」
「レギュレーションにもよりますがAASC(hIEのクラウド行動適応基準)に頼らない末端制御系、人間でいう反射神経のようなものはアスリートクラスでは肝となる技術ですね。脳によるトップダウンでないもの、つまりAASCを提供する超高度AIヒギンズでは対応できない運動性です。」
「それほどの運動性の需要があるんですか?」
「大いにありますよ。事実人間自身がサイボーグ化を望み肉体の強化を図る時代ですから。うちが試験的に高性能末端反射神経を提供している被験者がいますからお訪ねください。」
ユイはまだ反射神経の高度化がどう人間社会に役立つかイメージできていなかった。
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