所詮、僕らは野狗子に喰われたのだから

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 秋が来る。そんな予感を身に感じ始めたのは。もう十月も中旬の頃だった。  一人帰る電車の中。孤独はだんだんと、慣れ始めていた。  今頃になって身にしみてくるは、失恋の痛み。あの日のことを何度も頭で繰り返す。もしあの場面で、僕が正しさを棄てていたら。受けいれるだけの正しさを。  誰かの正しさは、また誰かの正しさを踏みにじる。  全部、野狗子のせいだ。僕の脳は死んでいる。野狗子に食べられてしまった。だから、僕は気づけない。救われない。助からない。  あの時は反響していた疑問が今は僕の中だけにとどまってる。  このまま楽をして生きていけるか。  今の僕には、その答えすら出すことができない。彼女がいたあの夏のせいだ。楽をしなかったら、僕はまたあの日々を取り戻せるのだろか。もやはそんな気力もわかない。  駅に降りると、珍しく彼女も降りていた。それでも、前のように一緒に帰れるわけではない。彼女には既に彼氏がいる。できる限り、一緒にはいない方がいい。それは彼女のためでもあるが、僕のためにもある。  とりあえず、時間をずらすため。駅の前のコンビニに入り買い物をして出る。 「・・・・・・寒いね」 「・・・・・・何で?」  何故か、外で狗巻は待っていた。いつもは、前に行ってくれるのに。  でも、想像以上にそれが嬉しかった。やっぱり、僕にとって彼女は憧れだった。 「彼とは別れたんだ。だから、また一緒に帰ろ」 「大丈夫なのか? それ」 「まぁね、多分大丈夫。別れの秋って言うし。なんとなく、周りは察してくれるかなって・・・・・・。元々、あの人は別れた彼女とかいるし。まぁ、少しは悪く目立つもしれないけど」 「そっか」  狗巻とまた一緒に登下校を送れるのは嬉しいことだ。だからといって、それだけだ。昔に戻っただけ。いや、彼女は変わった。もはや過去の傷を引きずらず。脳は生き。己の正しさを持っている。それこそ、付き合った相手を振るぐらいの。  そんな彼女と、並んで歩く。また、振り出しに戻った気分だ。ずる賢く生きて、僕よりも高い場所に住む。そんなことに、劣等感を感じていた夏の前のように。  受けいれるしかないんだ。もはや、僕らは生きる世界が違うんだから。脳を食われ死にかけの僕と、正しく生きる彼女。  野狗子のせいだ。僕に、脳があれば。また、彼女を家に送ることができただろうか。  家にたどり着き。久しぶりに彼女の「また明日ね」を聞いた。  そして、別れる直前。彼女は僕の名を呼んで、意味深に微笑むと。その言葉を僕に返した。投げかけたあの言葉は今、長い時を得て。反響した。 「自分の【頭】で考えなよ」
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