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暑い五月の後半頃だった。
少し遅れて転校生がやってきた。田舎の高校は全校生徒二百人で、そのうち七割が電車を使っての登校だった。僕が一年の頃一人で降りていた駅に。その子も、そこで降りた。そして、僕らは出会った。
学年は同じだがクラスは違う。他のクラスに転校生が来たと騒ぎになっている中、興味すらなかった僕だったが、そこで彼女の姿を始めて見ることになった。
少し、髪の色が薄い。黒っぽい灰色。ふうわりと、柔らかそうに膨れたショートカットはどこか純情な印象を与えるが、すべてに興味のなさそうな瞳が彼女の存在をよりいっそミステリアスにしていた。
一緒の駅に降りた。それだけだったけど、彼女は僕に声をかけてくれた。「転校初日だから、いろんな人と仲良くしたいんだ」と、明るくめの声音を出したが、その笑みもどこか薄い。
彼女の名前は【狗巻(いぬまき)レイカ】。名前すらもどこか不思議で、彼女自身も親族以外で見たことも聞いたこともないんだよと笑って見せた。
僕らが降りた無人駅の先には山と田んぼが広がっている。駅から数分離れるだけで家と家の感覚が広くなっていく。山にさしかかり坂道が急になってきたあたりで僕の家があり、彼女の家はさらに坂を上った先にあるようだった。
僕はそのことに驚いた。それは、この集落に伝わる話であり、山の上に行けば行くほど、昔この地でおきた戦争で死んだ人々の霊が現れるようになるという話。
どこにでもある、学校の七不思議のような怪談だ。結局は子供たちが山奥に入らないための作り話なのだろうが。幼い頃からそんな話を聞いていた僕たちは心の奥で山の上を恐れ小学校・中学校この場所に住み遊んだ中でも僕の家よりも上には行ったことがなかった。
小中学校の生徒の中で僕より上に住む生徒はいなかった。
でも、高校生にもなってそんな馬鹿げた話を信じているとは思われたくなくて僕は、彼女にその話はしなかった。初対面でする話でもないし。
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