所詮、僕らは野狗子に喰われたのだから

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 さて、夏が来た。僕ら学生には会ってもないような夏休み。学校が半日で終わるだけだ。部活生はその後に部活があるのだから大変だ。僕の趣味といえば、月額制のサイトでみる映画やアニメ。映像系の部活はないし、そもそもあっても家で見ている方が楽しい。  というわけで、部活は入ってなく。この夏も涼しい部屋の中でゆっくりと過ごす予定だった。  想像通りの炎天下。学校と家の往復の日々、去年と違うのは隣に狗巻がいることだ。 「狗巻は、家に帰っていつも何しているの?」 「うーん、別に。勉強? お母さんがしろってうるさいし。でも、何もしてないことが多いかな。なんかぼーっとしている」 「そういえば、宿題もう終わったっていってたよね」 「うん、時間はいっぱいあるし。終わらせようとは思ってなかったけど、なんか。終わった」 「もしかしたら、終わり頃に見せてもらうかも」 「いいよ。でも、もう予約は入っているから、必要な時は早めにね」 「あぁ、もしかして。そのために?」 「そう、ずる賢く生きるために・・・・・・ね」  気だるげにそういって、陽炎の揺れを見つめながら歩いて行く。太陽が真上にある中をほぼ毎日歩いているせいか、彼女はかなり日焼けをしている。こんなこといっているが、この日焼けを見る限り、僕よりかは外に出ているようだった。  焼けて小麦色になった彼女は、出会ったときほどの薄さはなく。なんだかんだ、田舎娘な雰囲気に染まっている。  そして、家に着き。僕を置いて彼女はさらに坂道を上っていく。  シャワーを浴びて汗を流してスッキリすると、昼飯の炒飯をもって二階の自室に行き空調を効かせてPCをつける。こんな田舎でもネットが繋がる時代は本当にありがたい。  だらだらと一時間、何を見るかぼーっと考えやっと決まりさて見ようとしたそのとき。インターホンが軽快に鳴り響いた。  窓を開けてならした主を確認すると、僕は急いで階段を駆け下りてドアを開けた。 「どうしたの? 急に」 「いや、お母さんが・・・・・・」 「・・・・・・お母さんが」  狗巻の母親はなにかと彼女に口を出すようで。最近は、よく「家にばっかいないで外にでなさい」と言ってくるようになったという。そう言われると、彼女は一時間ほど散歩に出て帰るのがいつも通りというのだが、今日は少し雲行きが怪しくなって雨宿りにきたとのことだった。   確かに、僕らが下校してきたときとは打って変わって少し空が暗い。  別段拒否できるような僕ではなく、しかし彼女を家に上げることに抵抗がないわけでもない。いいのかな? いいんだろうけど。と悩みながらもすでに彼女はリビングのソファに座っている。現状だ。  そして、なんとなしに冷たいお茶でもともてなした頃に、外では急激に雨音が強まり始めた。さらには、雷も。 「夕立だろうね。すぐやむといいんだけど」  僕が外を見ながら不安を交えてそういうと、「まだお昼だけどね」と彼女は笑った。 「狗巻の家は、親が厳しいの?」 「ううん、別に厳しいわけじゃないの。前から私、何も言わないと何もしない子だったみたいで。両親に、常に何をすればいいか、どうすればいいか一々聞いていたの。その名残っていうか、お母さんはボーッとしている私をみると、ついつい口を出したくなるんだって」 「へぇー。でも、狗巻はそれを一々聞いているんだね」 「うん、理不尽なことを言われることもあるけど。言っていることが正しいなって思うことが多いし。それに、その方が楽だから」 「・・・・・・・・・それは、少しわかるかも」 「ほんと?」  雨は強く。激しく降り続けている。今頃になって、家に上げずに傘でも貸して帰るように言うべきだったかなと後悔が湧き出ている。そしたら、今頃こんな嫌な緊張をせずに、外の雨なんか気にせずに部屋で過ごせたのに。  まぁ。最初っからその発想があっても、彼女が雨宿りをさせてほしいと言ったら何も言わずにあげたんだろうな。  そっか、僕らは。少し似ていたんだ。 「『あんたは、野狗子(やくし)に脳を食われたのかい?』 今は、言われないけど少し前までそれが僕の母さんの口癖みたいなものだったんだ」 「野狗子?」
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