所詮、僕らは野狗子に喰われたのだから

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「なんか、どっかの妖怪みたい。人の脳みそを食べるんだって。僕も、自分の意思がないっていうか、いっつも受け身でさ。高校を決めたのも周りからの進めを受けいれただけだし。まぁ、母さんはずっと一人で遠くの高校に通うのに不安はないかって言ってたんだけど、僕は何もいえなかったから。よくわかんなかったし。それで、小言を言うように毎日言われていたよ」  自分の意思なんて持った方がいいに決まっている。夢があった方が明日を行きやすい。目標があった方が日々は充実する。計画性があった方がうまくいく。  それでも、僕は受け身であり続けた。どうなろうが、それを受けいれればいいだけ。それを続ければいい。なんでそんなことができるのか。 「楽なんだよね」  僕が笑うと、彼女もどうしようもないように笑って頷いた。そうだ、この思いはどうしようもないんだ。  一時間もしないうちに雨は上がり、濡れたアスファルトを太陽は照らし当たりはキラキラと光っている、蒸し暑さが鬱陶しい。 「じゃあね、ありがとう」  玄関先でそういった狗巻は歩き出して、坂を上っていく。 「なぁ、狗巻?」 「ん?」  なんで、今頃になってそんな気が起きたのか。原因はやっぱり、彼女が僕と似ているように感じたからだろう。 「ここから家近いのか?」 「うん、まぁ。そこそこ歩くけど」 「それなら、送っていくよ。僕も、たまには外に出ないと」 「ほんと?」  初めてだった。彼女の横に並び、初めて僕は自分の家よりも上へと進んでいく。  坂を越えた先。なんてこともない。駅から僕の家に近づにつれ、家と家の間が開くのと同じ。その先も、間を広げながら家々がならんで山上へと続いているだけだ。なにも、恐れるようなことはない。  彼女の言うとおり蒸し暑い中、なかなかの距離を歩くことになったが。そんなことを一々憂鬱に思うことはなかった。特別の色合いもない普通の一軒家の前で彼女と別れ、帰り道。彼女の横について、坂を越えた僕の心の奥では、この蒸し暑さのようなちいさな不安がじめじめと広がっていた。
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