所詮、僕らは野狗子に喰われたのだから

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 僕という人間は常に一人だった。小学校、中学校の下校も、みんなと帰っても最終的には僕一人になる。高校になるといよいよ一人は加速した。  別に、一人であることに不満を抱くことはなかった。それを受けいれる。それが僕であり、一番楽な方法である。  そんなある日に、狗巻は現れた。  僕は、彼女に強く惹かれた。どうしようもない気持ちで一杯になった。それはなぜか?  単純に、彼女は僕よりも優れているように見えてしまっていたからだ。僕と同じ駅で降り、同じ道を帰る。僕と同じようにあの高校ではよそ者。野狗子に脳を食われたような脳死で孤独を受けいれた僕と違い、彼女はずる賢く頭を使って立ち回り居場所を手に入れた。下校も、僕よりも高い場所に住んでいる。  僕は彼女のようになりたいとさえ、思っていたかもしれない。僕には狗巻は自分の意思をもち、常に行動する人物に見えていた。脳のない僕と違い、彼女には素晴らしい脳がある。彼女は、野狗子に食われていない。僕も、彼女のような脳がほしい。  しかし、狗巻が雨宿りに来たあの日。それが幻想だったと気づいた。  彼女は僕と同じだった。でも、同じだったからこそ、思うことがあった。彼女の話を聞く中で僕は、この子はずっと母親の言うことを聞いて行くつもりなのか? そう、疑問がうかんだ。しかし、次の瞬間その疑問は僕にも返ってきたのだった。  僕らはこのまま、楽をして生きていくことができるのだろうか。  その疑問がハッキリと浮かび上がったのは夏休み中期頃だった。
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