所詮、僕らは野狗子に喰われたのだから

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 彼女の言い方には、それに対しての嬉しさは含まれていないようだった。しかし、彼女の朱色が脳裏に残っている。  しかし、告白してきた相手の名前を聞いて狗巻の状況に僕は納得した。ウチの学校の中ではかなりモテる男だ。しかも、前に付き合っていた女子がいる。今も、思いを馳せる子もいるはずだ。  受けいれるも、断るも。決して楽な道ではない。  狗巻は確かに賢くこの学校の中に収まっていた。最初は多くの生徒と話し、存在を示し。その後は調子に乗ったと思われないように謙虚に落ち着いて過ごしていた。元々、受け身体質の彼女は話を合わせることや、流れに乗ることに抵抗はなく、収まる場所に収まったようだった。  だが、そこは青春ど真ん中であり、そこに男女がいるなら当たり前にそういうことも起きる。それは、残酷に平等なのだ。だからこそ、こういうことも起きる。 「私はどうすればいいのかわからないの」 「いつも通り、親に聞けばいいんじゃないか?」 「・・・・・・ううん。お母さんには、言えない」 「なんで?」  狗巻は黙って俯く。ハッキリとはわからないが、彼女の中に何かしらの葛藤があるようだった。でも、その母親に相談できないことを何故僕に言って来たのだろうか。  そう考えると、自然の納得する答えはでた。  多分、彼女は答えを出すのが怖いのだろう。母親に言えば、すべてが決まってしまう。狗巻にとって母親が正しくすべてだ。母親が振りなさいといったら、それを受けいれないといけない。いままで、彼女はそうしてきたが今回ばかりはそれができない。  でも、それは何故だ? 「もしかして・・・・・・前にもこういうことがあったのか?」  彼女は静かに頷いた。当たってしまったかと僕は頭を掻き、部屋の中に沈黙が広がっていく。  頭の中で、勝手に彼女の過去を想像し始める。しかし、想像が形になる前に狗巻はゆっくりと答えを語り始めた。 「中学二年の頃。告白されて、私はお母さんに相談したの。でも、そのときは引っ越しは決まっていて。お母さんから辞めないさいっていわれたの。そのとおり、彼にいって断ったんだけど。そこから、引っ越すまでの間いじめにった。どうせ、いなくなるってわかっていたから、本当にひどいいじめだったの」  結局その、いじめは引っ越すまで終わることなく。狗巻は次の学校に行くのが怖くなった。しかし、母親は不登校は認めなかった。ずる賢く生きれば、大丈夫。そう、彼女に教えた。  その後彼女は何度も引っ越しを行う。そのたびに、ずる賢く生きるのが上手くなりやっと落ち着く場所の手に入れれるようになった。 「お母さんはここに引っ越すとき言ったの。もう、高校卒業するまではここに住み続けるだろうから上手くやりなさいって。それなのに。どうしよう・・・・・・」  彼女の言葉を聞いても僕にはやはり、何もできない。それが前提として明確に存在している限り、僕に語るのは間違っているようにも思う。それなのに、彼女は全部話してくれたあ。告白されたことも、過去の傷も。  かわいそうだとは思う。過去の傷を背負いながら。彼女は今、自分の正しさ。母親という正しさにすがることはできない。大きな葛藤の中で、悩み苦しんでいる。だからこそ、僕には当たり前のことしか言えないんだ。  狗巻自身が一番わかっていることを。  彼女はそれを僕に言わせる。  正しさなんか貫いても、脳が死では救われない。野狗子は僕らを助けない。そもそも、君の脳は野狗子に食われてなんていない。 「自分の【頭】で考えるんだ」  彼女の朱の表情。既に、答えは出ている。いつまでも、正しさに縋らず。いつまでも、かわいそうに過去の傷を背負わなくてもいい。ただ、少しだけ。自分で考えればいい。気づけばいい。自分の正しさを。
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