帰宅と散歩

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帰宅と散歩

 数か月ぶりの故郷はむこうとは違い、いやに蝉がうるさかった。日差しもあまり歓迎的とはいいがたい。暑くてTシャツの襟をばたつかせた。 大学の無駄に長い夏休みを俺は故郷で過ごすことに決めた。決めたとは大袈裟か。特にやることがなかったから、ふらりと帰ったに過ぎない。  連絡もなしに帰ってきた一人息子を両親は特に責めることなく歓迎してくれた。大学生活について話しながら昼食をとったあと、両親は俺に散歩を勧めた。このくそ暑い中、なぜ外に出なければならない?と目で訴えたが、どうやらうまく伝わらなかったようだ。母は首を傾げ、父はしばらくして「ああ!」というと部屋を出て、何かを持って帰ってきた。 それはカボチャ色の折り畳み傘。何とファンシーな。 何をどう勘違いしたのか、理解しかねるが父は満足げににっこりと笑うと、「最近夕立が多いからな」と。 どうやら散歩をする以外の選択肢はないらしい。 俺はしぶしぶそのファンシーな傘をもって外に出た。
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