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一通りまわって買うものを選び終えた所で、ドーレルさんの所へ戻る。
「はい。これで足りる?」
お金は人間たちが使っていたものと同じ硬貨だ。
紙幣はちょっと昔、ヤギたちの間でブームになって食べ尽くされてしまったから、今はもう無い。ブームになった割にはおいしくなかった、というのは知り合いのヤギ談。
お金の入った袋をドーレルさんに渡す。細かい計算は俺たちタヌキやアライグマより、頭のいい犬の方が向いている。だから基本的にドーレルさんに渡して任せている。
これがもし他の店で、店員がニワトリだったら自分で計算しなきゃいけないけど。
「えぇと……うん、大丈夫よぉ。はい、これ残り」
「ありがとう。結構袋に残ってるけど、本当に計算合ってる?」
「大丈夫よぉ。それにしてもドーナツにスナックのお菓子だなんて、大丈夫なの? お腹痛くなったりしない?」
「あー、これは今日食べるわけじゃないし、俺は多分食べない。アライグマの友達の為だよ」
ドーレルさんは目を丸くして固まった。
そして、尻尾をはためかせながらずいずいっと顔を寄せてくる。鼻息が、荒い、近い。
「キーヌちゃん、アライグマは苦手って言ってなかったかしら? お友だちになれたの?」
「うーん……アライグマ全体っていうなら、まだ苦手なところはあるよ。
けどひとり、友達──っていうか、兄弟分って感じには打ち解けたよ、案外。自分でも驚いてる」
これは本心。
多分、アライグマじゃなくってタヌキ同士だったとしてもそうだけど、職場の全員とは仲良くやれない。
それでもまだ、アライグマよりはキツネと一緒の方がまだやりやすいかな。あっちはあっちで、相手の機嫌が悪いと酷い目に遭うけど。
「びっくりはしたけど、仲良くやってるならいいわぁ。うんうん、仲が良いのはいいことよぉ」
「まぁ何かあってやさぐれたら、きっとまたここに来るよ。ヤケ酒とか、ヤケどんぐりをしに」
ありがとう、とお礼をして店を出ようとした。
「はぁい。また今度──あっ、キーヌちゃん! ちょっと待って!」
するとドーレルさんはカウンター下を探り、一枚の紙を渡してきた。
これは──
「俳優、募集……? って、これ、本当?!」
今となっては唯一となった映画会社『フォクスター』の俳優募集のポスター。
そこはあの『ジェット』が活躍していた場所で、まさしく俺が目指している会社。
そんな場所が、俳優を募集しているだって?
「ポスターが来てたから取っておいたのよぉ。ほら、キーヌちゃん目指してるんでしょ?
この番号に電話したらオーディションも出来るみたいだから、やってみたらどうかしら?」
なんだか、渡りに船って感じ。タイミングがよすぎて逆に怖い。
……まぁいい機会といえばそうなのかな。
とにかく、帰ってから考えよう。
「ありがとう、ドーレルさん。また今度ね」
改めてお礼を言って、店を出る。
……買い物の後のこの、買ったものを車に乗せるのが面倒でたまらない。
ウシとかなら背負っていけるんだろうなぁ。でも牧草はもっとかさばるから、どっちもどっちか。
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