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家に帰って食料をしまってから、さっきのポスターを見る。
うん、何度見たって変わらない。あのフォクスターだ。故郷でもフォクスターの作った映画は何度も見てきた。
「カメラが君を待っている! ……かぁ。
でも俳優っていっても、どんなことをするのかとかは書いていないのか」
いきなり望んだ仕事ができるとまでは思ってない。
けれど腹踊りならともかく、リアル分福茶釜をやれだなんていわれて閉じ込められるのは、いくらフォクスターでの活躍といっても勘弁だ。
「…………ジェットにも聞いてみるかなぁ」
「呼んだ?」
「キャン!!」
飛び跳ねた。比喩じゃなく。
いやまさか突然背後から本人の声が聞こえるとは思わないじゃん?!
見れば確かに、ジェット本人だ。その手には何かをぶら下げている。
「なっなっなっ、何でいるの? 仕事じゃないの?!」
「落ち着けよ兄弟。確かに今日俺は仕事だけど、昼休憩ついでにお見舞いに来たんだ」
そういって取り出したのは、ジェット本人の分のお弁当と小さな袋。
そこには白い玉が入っている。人間の残した薬、なんだろうか。
「これが二日酔いに効くっていうんだ。俺も食べたことあるけど……まぁー、うまい。効くだ効かないだ以前に、うまい」
「うまい……?」
「うまい」
それ、薬にするコメントかなぁ?
そりゃあ薬にしたって美味しいに越したことはないけれど、美味しいからって食べるのは本末転倒じゃないの?
「まぁ食ってみろって。世界が変わる、宇宙の真理がわかる」
「いや、言い過ぎでしょ。でも折角だから、ありがたくいただきます」
恐る恐る、その一粒を口に運ぶ。
──歯を立てるまでもなく、砂みたいに溶けた。
甘いけれど角砂糖みたいにガツンとしていなくて、じんわりと広がる程よい甘味。
たった一粒で虜になってしまった。
「うっ、うまい! これだけ美味しくて、本当に二日酔いに効くっていうの?」
「だろ? なんでも『ラムネ』って言うらしいんだ。ブドウ糖ってのが二日酔いに効く……けど葡萄から作るってわけじゃないらしいぜ」
「へぇー、よくわからない。もう一粒ちょうだいよ」
「おぅ、食え食え。一粒と言わず、気が済むまで食え」
だばだばと手のひらに広げてくれた。
最初は怪しいものかと思ったけど、こうして味を知ってしまえば、食べられない宝石よりも価値のある素晴らしいものにしか見えないからすごい。
これは確かに、うまい。世界が変わった。宇宙の真理はよくわからないけど。
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