Call and call

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あぁ、そうだ、本題。 はぐはぐとお弁当を食べているジェットに、さっきもらったポスターを見せる。 「聞いてくれよ、ジェット。さっき買い物にいったら丁度こんな募集があるらしくて、ポスターを貰ってきたんだ」 ごくり、と音を立てて飲み込んでから、一言。 「いいじゃん、電話しなよ」 ……うーん。何だか、悩んでいた自分が阿呆(あほう)に思えるくらいに清々しい。 それもまっすぐな目で言うもんだから末恐ろしい。その内、分福茶釜をやれとか言い出さないよな? 流石のジェットに頼まれても、それはごめんだ。 「でもさ。俳優の面接って何させられるんだかわからな──」 「はい、かけまーす」 ポスターに書かれていた番号を、目にも止まらぬ速さで電話機に打ち込まれた。そして即座にまたお弁当を食べ始めていた。 アライグマの手先が器用ってのは職場でも知っていたけど、ここまでとは。 ──って、びっくりして固まってる場合じゃない! かけちゃったんだから出ないと!! 数回の呼び出し音がなってから、静かに相手へと繋がった。 「もっ……もしもし! あのっ、チラシ……いや、ポスターを見てお電話しました!」 無音。返事がない。 思わずゆっくりとジェットの方を向く。 「……ジェット。もしかして番号間違えた?」 「そんなはずはないと思うけど。ここの画面に写ってる番号も合ってるし」 確かに画面にはポスターと同じ番号が表示されているので、押し間違いはなさそうだ。でも無音なのはおかしい。返事をしないにしても、物音くらいはあっていいはずだ。 妙に思って音の出る場所に耳を近づけると、小さくボソボソと聞こえてくる。 「出てくださいよ! 社長!」 「いや僕が出るのは違うでしょぉ?! 僕ぁホラ、面接の時に初めて会って、ビシッと決めるんだから! 君の仕事だよ、君! というかそもそも始めてきた電話なんだから早く出なさいよ!」 ……何やらあっちにはあっちなりの事情があるみたいだから、待っていることにした。
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