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けど、俺は俺で違っていた。
「俺は逆にアライグマに憧れているんです。『ジェット』っていう有名なアライグマがいた。
きっと先輩の名前も、そのアライグマをもじって付けられたんだと思います。格好いいからね。
他にも、どっちが一番かはわからないけど『ラスカル』ってのも有名だった。そっちは格好いいって言うより、皆から可愛がられている感じだったな。
だけど俺が憧れたのは『ジェット』の方なんだ。ムービースターで、すっごく……クールだった」
住んでいた山ではなく、そこから降りた所にある元人里。
そこで俺が見たのは、人間たちの残した映画だった。
その映画の中に『ジェット』は居た。人間たちの作った映画で、内容のほとんどは人間たちの活躍を描いているものだったが、『ジェット』は人間たちに劣らない活躍だった。
「タヌキにあんなに勇敢な話はなかった。だから……だから俺は『ジェット』に負けない、有名なタヌキになりたい。ムービースターになりたくて、ここまで来たんだ。
でも同時に、こっちに来てから少し失望もしていた。現実のアライグマは思ったみたいじゃなくて……こっちの話を聞いてくれなくて、粗雑な感じ」
白面の自分がこんなに語るとは、自分自身でも思っていなかった。
このアライグマには、ジェット先輩には話しても大丈夫な気がしたんだ。その期待を裏切ることなく、先輩は静かに頷きながら聞いてくれていた。
「でも、ジェット先輩はそうじゃない。今もこうして話も聞いてくれているし、さっきは俺の心配までしてくれた。
まるで……こっちに来てから居なくなっていた『ジェット』に会えたみたいな気持ちなんだ」
自分の頬に冷たい雫が流れていることに気付いた。だけどジェット先輩は無理に拭ったりせず、ただ優しく背中を撫でてくれた。
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