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「……よし! 決めた!
今日からお前と俺は兄弟だ!」
急に片ひざを叩いて立ち上がった。
兄弟……って、あの兄弟?
「いや、えっと。タヌキとアライグマですよ? イヌ科とアライグマ科ですよ?」
「そうじゃねぇよ。文字通りの兄弟みたいに兄と弟って差をつけるのも嫌だしな。だけど先輩と後輩ってのはもっと嫌だ。上下関係のままでいるのは嫌だ。
だから心の兄弟にならないか? 俺は気兼ねなく話すし、お前も敬語とか使わなくていい。仕事中は流石に周りにとやかく言われそうだから、今まで通りだろうけどな」
なるほど。アライグマ流の親友みたいな感覚かな。
納得はできた。けれど、それを簡単に受け入れるわけにはいかないかな。
「俺は嬉しいけど……本当にいいんですか?
もし先輩が、俺がムービースターになれるって信じているんだとしたら……それは過信かもしれないです」
「何でだ? ここまで来たのはその為なんだろ? 既にここまで来てるじゃないか」
「来られただけです。来てからは……ご存じの通り、アライグマに紛れて仕事をしているだけだ」
そう、現実は過酷だった。昔みたいに森を散策していればご飯が見つかるわけじゃなくて、こっちでは生活費を稼がなきゃ生きていけない。
それをこなすことで手一杯で、夢のために出来ていることは何一つなかった。
「それなら、二人でならお金も早く貯められるだろ? そしたら色んなことができる」
「先輩に……嫌って意味じゃなくて、俺がそこまでして貰う理由はないですよ」
「あるって。さっき言ったろ。
俺は化けるのが上手いタヌキに憧れている。そのタヌキの手伝いができて、しかも一番近くで化けるのを見れるなんて最高だろ!
田舎から上がってきて、アライグマに紛れて仕事をしていたタヌキがムービースターになるなんて、大化けじゃないか!」
──そうか、そんな捉え方があるのか。
この先輩の夢は、タヌキへの憧れは、ただ自分自身がそうなりたいってだけのものじゃない。化けるまでを見て、それすらも自分のプラスになる。そういう考え方なんだ。
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