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「な? 悪くないだろ?」
屈託の無い笑顔でこちらに手を伸ばした。握手。
その五本の指は目一杯に広げられていたが、無様ではない。さっき見た上司の手よりも、なんだか輝いて見えた。
「ありがとうございます。
──いや、ありがとう。えっと……兄弟」
「そうだ、そうこなくっちゃな!」
固い握手を交わしてから、がっしりと抱き合う。
兄弟と呼んだ時からだけど、すっごく恥ずかしい事をしている気がする!
けれど、この先輩となら……『ジェット』となら、どんな夢だってこれから叶えられる気がしてくる。
──だけど。
「だけど、その……ジェット。もしも途中で無理だと思ったら、ちゃんと言ってほしい。俺だって元々は、独りでだって叶えようと思っていた事なんだ。
だから、ジェットが力を貸してくれるのは嬉しいけれど……それを止めることは、悪い事でもなんでもない。それを忘れないで」
どうしても伝えておきたかった。
俺を手伝ってくれるのは嬉しいけれど、それでジェットが苦しい思いをしたり、悲しい目に遭うのは嫌だ。
俺の事を大切に思ってくれた、こっちでの初めての友達なら、尚更だ。
それを聞いたジェットは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で固まってから、すぐにいつもの笑顔にへらりと戻った。
「キーヌこそ忘れるなよ。俺は俺の夢があって、お前に協力するんだ。お前だけのためじゃないし、この事をお前が重荷に感じる必要もない。
俺は俺の人生のために、お前と一緒にいるんだ」
わかった。そう答えるのは簡単だったが、それだけでは物足りない。
俺はジェットの真似をして、へらりと笑った。
「あぁ。……あぁ、わかったよ。
そんでいつか、お前を笑わせてやる。夢を叶えるまでもの苦労を、何倍もの幸せにして──」
「化かしてやる! ってかぁ?」
「あ、くそぅ! 化かされた!」
二人で顔を見合わせて、へらりと──いや、腹を抱えて笑い合った。
同じ夢を叶えようとする、初めての親友。聞かなかったがきっと、ジェットにとっても同じことだろう。
これから先のためにも、慣れるためにこう呼んでおこう。
「ヘイ、兄弟! 最高だ!」
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