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 『あんた、元気にしてますか?最近はまた冷え込んできたから、体調崩さんようにね。 今週の土曜日で婆ちゃん、四十九日になります。仕事が急がしいんも分かるけど、最後くらい挨拶しに戻ってきなさい。お祖母ちゃん、あんたのこと一番気にかけとったんやから。』その下には法事の予定場所の住所が示されていた。  「婆ちゃん……」呟いた声は、狭い個室に反射して消えた。  幼少のみぎり、祖母にはたいへん世話になっていた。小学生のころ、つまらない悪戯をしては、両親から怒られてばかりの日々だった。激情に任せて手酷く叱責する父から、祖母はいつも私を庇ってくれた。  「あんたはええ子になるよ。婆ちゃんが保証する」泣きじゃくる私の頭を撫でながら、縁側に座った祖母は私を慰めた。時には「これ、お母さんには内緒ね」と言って、小さく畳んだ千円札を持たせてくれることもあった。野口英世ではなく、夏目漱石が書かれたやつだ。今から思えば、なんて愛されていたんだろうか。  しかし、当時の私はそんな祖母の愛に対して感謝するどころか、むしろ気恥ずかしく思っておざなりに対応していた。祖母が出してくれたおかきを「美味しくない」と言って断ったり、遊びを教えてくれる祖母に「そんなのよりゲームがいい」と言い放ったり、祖母の愛に応えようとしなかった。歳をとって成長していくにつれ、さらに祖母との関わりは減っていった。
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