諸事情8

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「本当に大丈夫?」 さらに詳しい指示に関しては追って連絡する、ということになり私たちは自分たちのフロアへと歩みを進めた。りっこ先輩や宗輔さんはもう少し話をするということだったので、私と鮫島くんだけ一足早く部屋を後にしていた。 「うん、大丈夫」 嘘だと思った。鮫島くんが視線を逸らしながら話す時は何か誤魔化す時。何年も隣りのデスクで彼を見てきたのに、気付かないわけがない。 「でも、お前が隣りに居てくれて正直助かったわ。俺一人だったら耐えられなかったかもしれない」 へへへっと力無く笑う。こんな時に何も力になってあげられない自分の無力さに腹が立つ。いつも私が落ち込んでいる時、悩んでいる時に声をかけてくれるのに。私は何もしてあげられない。 「ごめんね」 「何が?」 「私、何も鮫島くんの力になれない」 目を丸くした鮫島くんは、少し間を置くと優しく笑った。 「お前バカだな」 「ばっ、バカ?!」 「さっき言っただろ?お前が隣に居てくれてよかったって。十分力になってくれてるだろ?」 辛いはずなのに、鮫島くんはただいつものように優しい。やっぱり鮫島くんにはちゃんと幸せになって欲しい。そう思った。 「まぁそんなに言うなら、とことん俺の話し相手になってもらおうかな」 「なるなる!何時間でも!」 話を聞いたからと言って、鮫島くんの心の傷は癒えない。でもちょっとでも紛れるのなら…。 少し前を行く鮫島くんの背中を追った。
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