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諸事情2
ジュワ…という小気味いい音が広がる。フライパンを片手に振ればお出しの香が鼻をくすぐった。
課長はまだソファーで寝ているから、あまり音を立てないように細心の注意を払う。
昨日の夜、近くのスーパーに買出しに行った私は、朝ごはんの材料と最低限必須な調味料を手に入れていた。本当に何も無かったので、あれもこれもと考えているうちに結構な買物の量になってしまっていた。
よっ、と声を上げフライパンからお皿へ出来上がった卵焼きを移すと簡単ではあるが、朝ごはんが出来上がった。
朝一で送らなくてはいけない資料があるとかないとか言っていたけど…。夜遅くまで仕事をしていたんだろうか?
気になって、課長が眠るソファーへと静かに近寄る。
すー、すーと小さく寝息を立てる課長は、なんとも無防備で。本当に整った顔。ちょこっと生えてきた無精髭がいつものオール完璧、鉄壁、冷徹な氷室課長とは思えないけど。メガネをかけていない姿も初めて見たなぁ。
そんなことを思っていた時だ。
ピーッピーッピー
炊飯器からお米が炊けたよ♪っとアラーム音が鳴り響いた。ビックリしてキッチンに向かおうと思ったのに…
がしっと私の腕に込められた力。思わずよろけてしまった私を待っていたのは…
「おはよう」
朝日に照らされて、まだ眠そうなのに色気たっぷりの課長の笑顔だった。どうにかして腕を振り解こうとしたけど、その力に全く抗えない。
「おっ、おはようございます」
「昨日はよく眠れた?」
その言葉に一生懸命首を縦に振る。その様子を見て、「本当に?」と畳み掛けるように攻めてくる。
実際の所は…
全くもって眠れなかった。寝付けなかった。
課長のベッドはフカフカで寝心地は最高だったんだけど…。
部屋に入った途端、課長から香る清涼感のあるミントの匂いが仄かにして。ベッドに入ったのは良いけど、その香りに包まれているような感覚に陥った。それからは昼間の告白やキスのことを嫌でも思い出してしまって……。全く寝れなかったのだ。
課長は私の嘘を見抜いているようで、ニヤリと口角を上げた。この人はっ!私のことからかってる!絶対!!
怒りからなのか羞恥心からなのかわからないけど、顔を真っ赤にしてぷるぷると何も言えないでいると
「なんか良い匂いがするけど?」
課長がキッチンに視線を送りながら私に問いかけた。
「朝ごはん作ったんです…。お口に合うかわからないですけど。良かったら一緒に食べませんか?」
「もちろん」
そう言うと身体を起こし、顔を洗ってくると洗面所へと向かって行った。
本当に心臓に悪い。イケメン恐ろしすぎる。朝日を浴びたイケメンとか…補正入り過ぎでしょ!!
なんだかぐったり疲れたけど、朝食の準備を再開すべくキッチンへと向かった。
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