諸事情8

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思えば、ずっと前から彼女に惹かれていたのかもしれない。 俺が初めて美桜ちゃんに会ったのは、まだ鮮やかな緑が眩しい新緑の季節だった。大勢の人間が行き来する会社のエントランス。その中で一際目立つ存在だった。 「あれが堀越美桜?社長の娘の」 「そうそう。やっぱ可愛いよなぁ」 「でも高嶺の花って感じ」 ヒソヒソと後ろで話す内容からして、彼女が最近社内で噂になっている社長令嬢の堀越美桜らしい。 キメの整った白い肌に艶やかなウェーブのかかった長い髪。着ている物も派手ではないのだが、清楚で高級感が漂うものだった。 「あ、居たわよ。堀越美桜」 「聞いた?昨日係長と二人で親密な感じだったって」 「聞いた聞いた!係長って奥さんいたよね?」 「うわー。人の物欲しがる女って最低」 「私、初めて見た時からろくな女じゃないって思ってたのよ」 彼女を好意的に見る者もいるが、その分敵も多いらしい。隣で話す女性社員たちの話がどこまで真実なのかわからないが、こういう風に陰口をたたく人を見て良い気分にはなれなかった。 そんな朝の喧騒の中、彼女はエレベーターへと姿を消した。 これが俺が美桜ちゃんと初めて出会った日のことだった。
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