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諸事情3
油断していた。
そうだ、忘れちゃいけない。
この人は誰もが恐れる冷徹、絶対零度の男。シルバーフレームの奥から注がれる凍て付く視線は悪魔。いや、このどす黒いオーラを纏った姿は…
魔王だ。
この数日で悪魔から魔王へ昇格するなんて、さすがエリート、ハイスペック課長ですね!
さてと、現実逃避はここまでにして…
目の前にいる魔王さまと対峙する。
朝ぶりでございますね。
ご機嫌いかがですか?
と、聞くまでもなく激しくご機嫌斜めなのは見てすぐわかりましたよ。
「おい、加藤」
「ひっ!」
ある程度覚悟していたとは言え、名前を呼ばれて思わず悲鳴が漏れた。
「進捗状況は?」
「はいっ!すみません!!まだ資料を作った段階でして…」
「他に言うことは?」
ひぃー!シルバーフレームから放たれる視線が、まだそこまでしか出来ていないのか?と言っている。ぶっ、ブリザード!!!
「すいません!かっ、必ず今月中には起案書上げますっ」
「ほぅ、今月中と言うともう日がないが?」
チラリとカレンダーに目をやった課長は、腕を組んだまま表情を崩さない。
「必ず!絶対に間に合わせます!」
頭をペコリと下げると、逃げるようにして自分のデスクへと戻った。
いや…怒られそうだとは思っていたけど。
引き出しの中からとある資料を取り出す。自分なりに結構アイディアを練ったものだったんだけど。
「例の案件、課長に催促されたのか?」
そっと隣のデスクでパソコンと向かい合っていた鮫島くんが耳打ちをする。
「うん。中々進められなくてね」
別にサボっている訳ではないし、仕事が立て込んでいて手が付けられない状態という訳ではない。私の実力不足のせいだ。
「あの古狸。本当に往生際が悪いんだから」
私の肩に手を置き、りっこ先輩が顔を歪める。
普段はそこまで仕事は遅くない。そんな私が今回悪戦苦闘している理由。それは通称古狸、商品開発部の担当者である稲田さんにある。
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